第19話 届いた祈り

 砂金のように細やかな物質が連なって形成される揺らめきは、まるで湯気のように不思議な動きをしていた。


 微かに感じる爽やかな匂いが、鼻腔を優しく湿らせる。



 初めて出会った感覚に気を取られているフィルメラルナの横で、エルヴィンが祭壇に向かって跪いた。


 両手を組んで祈りの形を取るのを見て、フィルメラルナも慌ててそれに倣う。



 何せこんな経験など初めてなのだから、細かい勝手が分からない。


 横目でちらりと見た彼の横顔は恐ろしく整っていて、まるで神々を模した彫像なのでは、と思ってしまうほど芸術的だった。



(もしかして――)



 跪いたフィルメラルナは、目前を流れる黄金の流れに目を眇めた。


 これが、神が世界に流している神脈というものなのだろうか、と思い至ったからだ。



 自然の摂理を司り、植物の成長を促したり、争いの心や災厄を遠ざける筋道なのだと言うが。


 まさか、目に見える存在だとは想像していなかった。



 その姿は、まるで細い金色の帯のようで。


 半透明のそれが幾重にも合わさり、時にはうねり、煙のようにゆらゆらと縦に流れている。



 ふと。


 瞳を閉じてみた。



 すると、瞼の裏に、もっと鮮明な金色が映り込んできた。


 じっと見つめれば見つめるほどに、どんどん輝きを増していく。



 眩しくて目を瞑っているのが辛いと思えるほどになった頃。


 背後で「おおおっ」と、声ならぬどよめきが沸き起こった。



 次いで、ヒソヒソと何かを囁く声が漂いだす。


 内容は聞き取れないが、後ろの座席にいる大貴族、高官たちから発せられているようだ。



 何が起こっているのだろうかと気になったフィルメラルナは、そっと薄目を開けてみる。


 そして驚いた。



 それまで暗くて存在すら気づかなかった、祭壇のステンドグラスが光っていたのだ。


 天におわす神が、様々な色の光を纏い、地上へと静かに降り立つ……そんな絵が浮かび上がっている。



 あまりの神々しさに、思わず声が漏れそうになった時、隣のエルヴィンがすっと立ち上がった。


 どうやら、儀式が無事に終わったようだ。



 そう悟ったフィルメラルナも静かに立ち上がり、祭壇の側面で小さく手招きする神官の方へと歩いて行く。



 エルヴィンも反対側へとゆっくり歩き去った。


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