第6話 不穏な触感

 熱い。


 まるで体が、頭が、溶岩に焼かれているみたいだ。



 短いながらも、これまで生きてきた魂が全て熱い煉獄の炎に焼き尽くされ、溶解してしまった内蔵を無理矢理ぐるぐると掻き回される。


 そんな究極に不快な気分に襲われ、ぎゅっと両目をきつく瞑っていた。



 それなのに。



 自分の瞼、その裏側なのだろうか?


 ぼんやりと滲む大きな光の中に……誰だろう、人の姿が見える。



(あなたは――)



 最初は、幼い頃に亡くした母親の姿かと思った。


 女性が纏う真っ白な装束が、あの日の葬儀を思い出させるから。



 しかし、その人影は母親ではなかった。



 長い長い金の髪。


 深い湖の底のような見事な緑眼。


 薄紅色の小さな唇は、微かな笑みを刷いている。



 すっぽりとした純白の貫頭衣に、金の装飾品が煌めいて、秀でた額には小さな蔦の印が。


 裸足で立つ両脚には、イバラがぐるぐると巻き付き、鋭く細かい無数の棘が突き刺さっている。



 皮膚が破れた場所からは、おびただしく血が滴っていた。



(ひぃ)



 神妃の足下へ視線を移し、彼女の両足を囲んで広がる赤色に声を詰まらせた。


 血の海だ。


 気づけば、自分の足下も真っ赤に彩られている。



 その場から逃げ出そうと、身を翻したフィルメラルナの足がつんのめる。


 自身の足下を見れば、知らないうちにイバラにぐるぐると巻き付かれていた。



 焦って振り返ったフィルメラルナは、ハッと息を呑む。


 いつの間にか、顔の間近に神妃の美しい顔が迫っていた。



 ごくりと喉が大きく嚥下する。


 同時に。



 神妃の額が波打った。



 刻まれた蔦の印が、ヒクヒクと不自然に蠢きだす。


 ゆっくりと小さく身をもたげ、やがて触手のようにフィルメラルナへ向けて伸びてくる。



「いやっ、やめてぇぇぇ!」



 恐怖のあまり声をあげ、フィルメラルナは飛び起きた。


 酸素を求め、はぁはぁと激しく呼吸を繰り返す。



「あ……」



 暗い部屋。


 けれど見慣れた風景、自分の家の寝台だ。



 夢だったのかと、小さく溜息を落としたフィルメラルナは、全身が汗に濡れているのを感じた。


 まだ戦慄いている両腕で、額に浮かぶ汗を拭ってみる。



 瞬間。



 ふと違和感を覚えた。



「な……に?」



 なんだろうか。


 額に触れる指先が、そこにほんの少し浮き上がった皮膚があるのを感じ取ったような。


 嫌な感じがする、鏡を見てみよう。



 そう思って、寝台からゆっくりと足をおろす。


 どれだけ深く眠っていたというのか、とても全身が重くて両足に力が入らない。



 まるで鉛のようで、自分の体ではないみたいだ。


 加えて頭が熱い、ひどい熱があるようでくらくらする。


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