第3話 フロリオとの別れ

「教会に薬を届けに行くところだけど……あなたこそこんなところで何をしてるの?」



 思い切り訝しんで問うてみれば。



「美しい月が俺を呼んでたからさ」



 ぷーーーっ。


 思わずフィルメラルナは吹き出した。


 笑いを堪えようとするればするほどに、肩が大きく揺れてしまう。



 自信過剰なお坊ちゃま。


 恥ずかし気もなく、真顔でよくもこんな臭い台詞を言えるものだ。



「失敬だろ、笑うなよ。それと……良い返事をくれるかもしれないと思って。おまえが俺に」



 少しはにかんでフロリオが頬を染めた。



「いやよ、あなたのめかけになんてならない」



 速攻で返した。


 いや今までも、何度も断っているのにしつこいのだ。



 だいたい「俺の妾にしてやる」と言われて、喜ぶと思っているところが気にくわない。


 確かに神王国ロードスにおける大荘園領主であるガシュベリル候、その嫡男からの申し出ならば、喜ぶ婦女子も多いのだろうが。



「え、あ、それは、その、たまたま恥ずかしくてそう言っただけで、俺は――」



 ばつが悪そうに頭を掻くフロリオを無視して、フィルメラルナはきびきびと歩き出した。


 正直つきあってなどいられない。


 その背へ、焦ったようにフロリオが叫ぶ。



「お、俺はもうすぐ騎士として王宮に出仕するんだ。暫く戻れないと思う。だから――」



 だから何だと言うのか。


 悪い人だとは思わないが、フィルメラルナは心に決めていた。



 町中の小さな薬草屋を父親と一緒に営んでいく。


 花や薬草について知識を得て、もっと役立てたいのだ。


 だから、次期領主の妾になどなってはいられない。



 後ろでフロリオが慌てる気配がしているけれど。


 矜持が高い彼のこと、追ってまではこないだろう。



 一度も振り返ることなく、フィルメラルナは教会へと急いだ。


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