第4話 寿命を全うしたら可愛がってね。

 暗い部屋で蝋燭の灯だけで遺影と遺骨に向かって焦点の合わない目でただ見つめる。

 両の目からは涙がずっと流れており、涙の跡で頬に化粧が出来ている程だった。

 子供達は両親が面倒を見てくれているが……


 時間だけが過ぎ、自分がお漏らししている事にすら気付かない。

 心はここに非ずといった感じだ。

 

 葬儀の時は周囲に人もあり、遺体があり、骨がありとまだ温もりを感じていた。

 自分の部屋にある調教道具ももう使って貰う事もない。

 首に掛かっている首輪も今は温もりを感じられない。


 おにいちゃんはもう……いない。

 

 おにいちゃんは最期に男なら女ならとどちらも名前の希望を言ってくれたけれど。

 本当はまだ言えてなかったけど、実はまた双子なんだよね、と。

 また黙ってたのか、出産後落ち着いたらお仕置きだな、と言ってくれるのを期待していた。

 それももう……ない。


 夜も過ぎ深夜。

 反応のない音子の周囲は母が清掃してくれた。

 そんな両親達は隣の部屋で就寝中。

 女の子座りのまま遺影を見つめていると視界がぼんやりとしだした。


 音子の勘違いや幻覚かもしれない。

 遺影の表情が変わった気がした。


 するとうっすらと光りその光が終息すると真志の姿へと変わっていく。


 「悲しませてごめんな。押し付けてしまうけど子供達を頼む。音子が寿命を全うしてこちらに来たら、たっぷりお仕置きしてあげるから。」

 「だから生きてくれ。」


 「あ、ぁぁ、ぁ。お、おにぃちゃ……」

 光が終息していく、これが本当のお別れだと悟った。


 「おにいちゃん、好き。大好き。私生きるよ、だから寿命全うしてそっちに逝ったらいっぱい調教して可愛がってね!」


 消え往く光の中で真志はサムズアップを決めていたように見えた。


 急に産気づいた音子は両親に介助され、救急搬送された。

 そして新たな命を2つこの世界に生誕させた。

 名前は兄真志の遺言に従い真人・子音と名付けられた。


 「おにいちゃん、待っててね。いっぱい悪い事していっぱい調教して可愛がってもらうんだから!」

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あなたはいない。 琉水 魅希 @mikirun14

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