高嶺に咲く一輪の花
@smile_cheese
高嶺に咲く一輪の花
僕は今、震えている。
突然、降り始めた初雪のせいだろうか。
手袋も持ってくればよかったな。
ギリギリで電車に乗り遅れた僕は、そんなことを思いながら、ベンチに座って次の電車が来るのを待っている。
すると、僕の隣に誰かが腰を掛けた。
どうやら同じ高校の女子生徒のようだ。
僕は気づかれないようにちらっと顔を確認した。
え?
僕は思わず固まってしまった。
隣に座っていたのは弓道部の高本彩花だった。
その美しい風貌から学校で知らない者はいないと言われているほどだ。
みな、彼女の美しさに目を奪われる。
もちろん僕も例外ではない。
けれど、僕は一度も彼女と話をしたことがなかった。
同じクラスで出席番号が隣になったにも関わらず、話しかける勇気がなくあっという間に冬になってしまった。
彼女はまさに高嶺に咲く一輪の花なのだ。
高本「あ、高瀬くんだ」
我に返ると、いつの間にか彼女と目が合っていた。
僕は慌てて視線を逸らす。
高本「高瀬くんも塾の帰り?」
高瀬「う、うん」
あの高本が僕に話しかけている。
高本「なんか急に雪が降ってきてびっくりだよね。私、手袋忘れてきちゃってさ」
彼女の真っ白な手は震えていた。
高瀬「ちょっと待ってて」
少しの間、ベンチから離れた僕は2本の缶コーヒーを手に急いで彼女の元に戻った。
高瀬「コーヒー飲める?ブラックしか残ってなかったんだけど、持ってるだけでも温かいよ」
きっと僕の顔は真っ赤になっていただろう。
けれど、それはこの寒さのせいになのだ。
高本「ありがとう…わっ、温かい」
彼女は受け取った缶コーヒーを開けると、恐る恐る口をつけた。
高本「う、苦っ」
高瀬「大丈夫?」
高本「ちょっと背伸びしちゃった。やっぱりコーヒーって苦いね。えへへっ」
彼女は恥ずかしそうに笑ってみせた。
真っ白な顔がいつの間にか真っ赤になっていた。
完璧な人だと思っていたけど、こんな一面もあるのか。
ああ、このまま電車が来なければいいのに。
そんな僕の思いに反して、彼女が乗る電車がやって来た。
高本「私、こっちだから。コーヒーありがとね。あ、高瀬くん。今度、私に勉強教えてよ」
高瀬「え?」
高本「じゃあ、また明日ね」
高瀬「う、うん。また、明日」
僕は一人、ベンチに座って電車が来るのを待っている。
缶コーヒーはすっかり冷たくなっていた。
けれど、不思議と寒くはなかった。
僕は今、震えている。
どうやら、寒さのせいではないらしい。
完。
高嶺に咲く一輪の花 @smile_cheese
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