第18話 十年越しの約束

 ボロボロの体の俺を葵が介抱しながら歩く。

 何とかマンションに辿り着いた。


 部屋へとあがる。


「今日は悪かったな。散々な休日になっちまって――ッ!」


 急に後ろから抱きしめられた。


「私、信じてた。総ちゃんが勝つって。助けてくれるって」

「ああ、俺も自分を信じてたよ。お前を助けられるはずだって」

「ありがとう」

「俺の方こそ。お前が居なかったら勝てなかった」


 暫くそのまま抱きしめられていた。

 俺は体を離し、葵に告げる。


「一日早いけど、カップルごっこ、終了しても良いか?」

「えっ?」

「明日、親父に会ってくれ」

「それって……」

「ああ、結婚の許しを得る為に」

「総ちゃんっ」


 今度は真正面から互いに抱き合った。

 今まで女を避けてきた俺に、こんな日が来るなんて。

 だが、薄々は感じていたんだ。初めて葵と会った時に感じた安心感。

 他とは違うなって。

 まあ、結婚しようと思うまでになるとは想像していなかったが。


 俺たちは次の日に備え、二人で一緒にベッドで眠りに就いた。




* * * * * *




 日曜日。朝から着替える俺たち。

 俺の実家に行く為だ。


「おいっ、その服、派手じゃないか?」

「そう? この胸元でお父さんを――」

「バカっ! 厳格だって言ったろっ」

「ごめ~ん」


 二人とも落ち着いた服を着てマンションを出た。


 そして、俺の実家の前に着く。


「緊張するね」

「そうだな。でも、絶対説得して見せるっ」

「総ちゃんっ」


 門を入り、中庭を経て、玄関を開ける。


「ただいまーー!」


 すると、柚子が現れた。


「あれっ、にぃに、どしたの?」

「ああ、親父に用があってな」

「けど、今は止めといた方が……」

「何でだ?」

「武道場で瞑想中だから」

「なっ!」


 瞑想の邪魔をすると、昔から強烈に怒られた。

 だが、何か矛盾を感じる。瞑想は無の境地、音を感じないのでは。


 親を否定するのはさておき、瞑想が終わるまでリビングで待つ。

 すると、お袋がリビングに入ってきた。


「あら、総。珍しいわね。えっ、その子は?」

「ああ、俺の未来の嫁だ」

「えっ!?」


 お袋が声をあげる。


「あなた、それをお父さんに言いに来たの?」

「ああ、絶対説得して見せる」

「ど、どうかしら……。あの人、堅物だから」

「知ってるさ。知った上で来たんだ」

「そう……。頑張って」


 お袋は優しい。絶対に賛成してくれる事は分かっていた。だが、親父は違う。恐らく、同居していた事を告げた時点で殴られるだろう。


 深い足音を立てながら親父が武道場からリビングにやってきた。


「んっ、総一郎。何してるっ。卒業まで帰ってくるなと言った筈だがっ」

「今日は親父に話がある」


 隣に座る葵を親父が眺めている。


「この方は?」

「葵って言うんだ。今、同棲してる。……結婚したいと思ってる」

「何だとっ。あのマンションに二人でかっ」

「ああ」

「女嫌いじゃなかったのかっ」

「そうなんだけど、葵だけは守りたいと思った」


 その言葉を聞いて父は黙って俺に近付いてきた。

 殴られる、そう思った時、親父が俺の頭に手を置いた。


「えっ!?」

「お前もやっと守るべきものを見つけたんだな」


 顔を上げて親父を見ると、今までに見た事の無い笑顔を向けていた。


「その方の目を見れば良く分かる。お前を信頼し、優しい目を向けている。喧嘩ばかりしていたお前が、そんな目を向けてもらえるようになるとはな」

「じゃあ、良いのか?」

「好きにしろ」

「ホントか? 良かったな、葵」


 葵もニコニコしている。


「だが、約束しろっ」

「約束?」

「卒業までは絶対に子供を作るなっ。良いなっ」

「ああ、それは安心してくれっ」

「苦労するのはいつも女性だからな。その事をわきまえろっ」

「はいっ」


 話を終え、昨日買ったプレゼントを思い出し、親父に差し出す。


「ちょっと早いけど、これ誕生日のお祝いだ。葵と二人で選んだんだ」

「お前が、私に……」


 袋を受け取り、中を見る親父。


「ありがとう二人共。大事に使わせてもらうぞ」


 喜ぶ親父の表情を見て、俺は本当に幸せな気持ちになった。


 俺たちは俺の実家を後にした。家族三人が見送ってくれていた。


 その後、手をつないでマンションへ帰宅した。


「ふう、緊張したな。まさか、親父があっさり許してくれるとは」

「総ちゃんの熱意が伝わったんだよ」

「そうかな?」

「ねえ、私にも熱意伝えて?」

「えっ」


 目を閉じて口を突き出す葵。キスを要求されている事が分かる。


「じゃあ、するぞ?」


 黙って頷く葵。

 俺たちはファーストキスをした。


「ねえ、して?」

「いやでも、親父との約束が」

「美鈴さんから貰ったアレ、いっぱいあるでしょ?」

「――ッ!」


 以前、貰った袋を見せてくる。

 覚悟を決めた俺は、その袋を受け取り、ゴムを一つ取り出す。


「本当に良いのか?」

「うん。あの時から総ちゃんに全て捧げるって決めてたから」

「よし」


 俺たちは二人でベッドに入り、初めて一つになるのだった。




* * * * * *




 朝目覚めて横を見ると、葵が寝ている。凄く可愛い寝顔。

 そっとおでこにキスをした。

 目を覚ました葵がおでこを押さえる。


「あっ、起きてたのか」

「うん。総ちゃんがおでこに近付いて来る前から」

「お前な。起きてるって言えよ」

「昨日の事思い出したら、恥ずかしくなって……。総ちゃん、元気過ぎるんだもん」

「やめろっ、そういう言い方っ」

「けど、十個全部無くなっちゃったよ?」

「……」


 余りの初体験にハッスルし過ぎてしまった。トレーニングを欠かさない俺でも体がだるい。


「今日、学校休むか?」

「ダメだよ、ズル休みは」

「だな」


 俺たちは制服に着替え、学校に行こうとする。


「おい、葵」

「えっ」

「今日から一緒に登校だ」

「でも、みんなに……」

「見せつけてやろうぜ。俺たちの仲」

「うんっ」


 俺たちは初めて二人並んで登校した。


 マンション出てすぐの所で美鈴さんに出会う。


「あらっ、二人仲良く登校?」

「はいっ、俺たち正式にカップルになったんです。結婚を前提に」

「えっ、あの総くんが……良かったわね……グスン」


 美鈴さんは自分が振られたにも拘らず、泣いて祝福してくれた。本当に嬉しかった。


 美鈴さんと挨拶をして別れ、道を歩く。そんな中、


「総ちゃん、全部使った事、何で言わなかったの?」

「バカっ! そんな事言えるわけねえだろっ」

「あっ、待って総ちゃあ~~ん!」


 俺たちの幼少期の頃の約束は、十年の時を経て叶う事になった。




おしまい。

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無敵の番長が自称ヨメなる巨乳に陥落させられた 文嶌のと @kappuppu

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