秘密

桜坂 透

第1話


 学校帰り、下駄箱を開けると、手紙と、小瓶が僕の靴の上に置かれていた。

“こっちはこれを作った。だから、あとは君に任せる。私たちの秘密は、君に握られている。君は仕方がなかった、と言うだろうけど、私は巻き込んでしまって悪かったと思ってる。これは、本来なら私だけの問題であるはずだった。きっと、一人では背負い切れていなかったよ。君がいてくれて本当に助かった。感謝してる。一緒に渡した瓶の扱いは、好きにしてくれていいから。特に連絡もいらない。まぁ、君の自由だけど、私たちはもう関わらない方が良いのだと思う。きっと。”

 手紙には、そう書かれていた。一緒にあった小瓶は、結構なサイズのもので、手の平でギリギリ包み込める、という感じだ。中には、細く丸められた紙と、三分の一ほどの量の白い砂、小さな貝殻やヒトデのモチーフをかたどったものが瓶の中で散らばっていた。

「関わらない方がいい、か……」

 僕は手紙をポケットにしまい、小瓶を手に持ちながら帰り道を歩いた。

 関わらない方がいい、と彼女は本当に思っているのだろうか。だとしたら、好都合なのかもしれない。彼女がどう感じるかは別として。

 駅に着き、いつもと違う反対方向の電車にのった。

 この小瓶の中には真実が記載されている。僕と彼女の関係は、とある少女の死がきっかけだった。

 その少女は僕にとっての幼なじみであり、彼女にとって、“恋人”だった。

 僕の幼なじみが消えた同じ日に、彼女も死の縁を覗いていた。本当は、二人で心中する予定だったらしい。お互いの手をロープで繋ぎ、川へと飛び込んだ。しかし、思っていた以上に川の流れが速く、ロープはちぎれ、彼女だけが助かってしまった。その後の取り調べで、何もかもを説明するのがばかばかしくて、あれは事故だった、ということにした、と。


 反対の電車が行き着く先は海だった。

 海が良く見渡せる崖へと足を進め、小瓶を眺めた後、思い切り振りかぶって、小瓶を海の方へと投げ捨てた。

 これで、いいのだ、と呟く。

 これで、もう彼女たちの関係を知っているのは僕と彼女本人のみとなった。

 僕は、本当は、幼なじみのことが好きだった。でも、僕が慕う少女は、僕のことなど視界にすら入っていなかったのだろう。彼女という恋人がいたのだから。

 それでも、苦しんだのだろう。僕が好きな少女は、きっと、誰にも知られていたく無いはずだ。

 だから。


 僕は、青く広がる一面に、足を一歩、踏み出した――。

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秘密 桜坂 透 @_sakurazaka

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