獣のモノローグ

深い森の奥底、開けた根の間で五人の戦士が眠っていた。


焚火に枝をくべ、火の番をするはずの戦士が一人、座っている。

彼は己の役目を忘れ眠りこけていた。


戦士たちは無防備に寝息を立て、音を殺して近づく者に気づかない。


襟首を掴まれ、その逞しい体は暗闇に吸い込まれるように引きずられていく。

急な衝撃に彼は目を覚まし、叫びに息を吸おうと胸を膨らませるが、声を上げる前に彼の喉へ黒い牙が刺さった。


静かに体が痙攣し、叫びを絞り出そうとする喉から悲鳴は出ず、闇を裂くような血しぶきが上がる。


飛び散る血は地に広がり、闇の中にじわりと染みを残していく。

静かに火の粉を散らす焚火へ土がかけられ、辺りは闇に包まれた。


星の光も届かないほどの暗闇の中。


鍛え上げられた体は地面に横たわり、太い首は掛布からさらけ出されている。

その喉笛に牙が迫り、噛み千切られる。


四人の男の命が、瞬く間に失われていく。

蠢く闇に抵抗する暇もなく、歴戦の戦士たちが命を落とす。

傍らに置いた剣を、弓を、斧を掴むこともなく、眠りの中で死んでいく。


四匹の獣は溶けるように闇の中に消え、次に現れた時には大きな獣へと姿を成していた。


森の底に佇む獣は巨大だった。


生える木々よりもさらに高い位置に頭があり、前足を持ち上げれば天まで届きそうなほどだ。

獣は首を下げ、草に転がる戦士を牙で蹂躙し飲み込むと、森の中へ去って行った。

ただ一人食い残された初老の女は、夜が明けるまで気づくこともなかった。


己のまわりが血溜まりになっているなど知らずに。

明日目が覚めれば、また当然に仲間に会えると信じて疑わずに。


生臭い血の臭いが鼻につき、眉をしかめ明け方に体を起こした。

そこに残っていたのは血にまみれた草むらと、仲間の荷物だけだった。


血はまだ赤く、その色を完全に失ってはいなかった。

赤に染まった草の先が、ぬるりと光っている。

老女は慄き、消えてしまった仲間の名前を呼ぶが、誰の返事もない。


どこに消えたのか。水でも汲みに行ったのだろうか。

待てども仲間の姿はなく、ただおびただしい血痕の中で震えていた。


我慢しきれなくなった老女は、荷物を取るのも忘れて走り、最後の望みに賭けて彼の元を訪ねた。老女は最も若い仲間に目覚めてからの出来事を話した。非力な彼に、一緒に探してほしいと懇願した。


未だかつて一人の旅をしたことがなかった老女は恐ろしさに震えていた。

己を守るはずの仲間はどこに消えたのか。あの残された大量の血は何か。己も襲われるのではないかと。


若い仲間は老女をあやすようになだめ、協力を申し出た。

老女は彼にすがり、己の仲間は強く、この歳になるまで行動を共にしてきた戦士なのだから、死ぬはずはないと訴えた。


落ち着きを取り戻した老女は仲間が攫われたのかもしれないと門をくぐろうとするが、若い仲間がそれを止めた。


どうかあなたの一人残った仲間から離れないでほしいと。

あなたの代わりはおらず、とても大事な命であると。

若い仲間は穏やかに、老女に語りかけた。


あなたの仲間を救う術はあると。死体がありさえすれば、戦士たちを弔い転生させることができる。


老女は彼の提案に激しく怒った。彼らは死んでいないと。

彼女の剣幕も激しい叫びも、若い仲間は受け止めた。


ようやく落ち着きを見せた老女は深く絶望した。

あれだけの血を流していたら、もう生きてはいないかもしれないと。

若い仲間は彼女の肩に触れ、それなら探したらいいと励ました。


どちらにせよ、仲間の死体は見つける必要があるのだから。その生死に関わらず。

彼は門の向こうを探すと誓い、老女には門のこちら側を探すように諭した。


老女は怒鳴る体力も残っておらず、熱の冷め始めた頭でその提案を受け入れた。


代わりに、彼は約束をさせた。


期間数日を設けて見つからなければ、仲間の死を受け入れると。

彼女は躊躇ったが、戦士がいなくては自分は動けないと思い知っていた。

しばらく沈黙し、彼女は了承した。


約束によって舞台は整い、機会を待つだけとなった。


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