夜明けに捧ぐ僕らの恋


「好きだからっ!」


葵は大きく目を見開く。その薄い桃色を宿した瞳から涙が溢れだした。


「僕はっ…葵のことが…好きだから。死んでほしく…ない…」


きっと僕の顔は涙でぐちゃぐちゃなのだろう。ただ必死に、この想いを、気持ちを、伝えたかった。すきだ、好きだ、一緒に、生きよう?


彼女は涙を拭うことはしなかった。でも、無理に笑うこともなかった。

ただ大粒の涙を流しながら、彼女は言った。


「そう言ってもらえて、本当にうれしい。でも…もう、時間だね」


僕はあることに気づく。__ずっと夜明けだった空が、時が止まっていた空が…だんだんと明るくなってきていた。


「夜が明けて…?嘘だろ、葵、まって」


「あなたのこと、絶対に忘れない。この夜明けに誓うわ!」


どこか吹っ切れたように涙と笑みを浮かべる葵は、そう高々と叫ぶ。


眩しい。しばらく見ることのなかった太陽が完全に昇り、辺りを照らしている。


視界が白く染まっていく。離れたくない、行きたくない。君だけを残して、行けるはず、無い。


「ありがとう、そら。また会おうね」


葵の声が鈴の音のように響き、視界が暗転し始める。





__彼女と笑いあったこの2日間を、この美しい夜明けを、彼女の想いを、笑顔を、その声を、



「_____大好きだよ、そら」



最期に聞こえた小さな声を。



僕は絶対に忘れることは無いだろう。






僕らをずっと見つめていたあの美しい夜明けに、僕らの恋を、捧げよう。







「夜明けに捧ぐ僕らの恋」

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夜明けに捧ぐ僕らの恋 非対称 @Lath_Wasabi

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