Love, over extended. 午前四時、クルーズ後の夜明けとベータ
「おい。おいおいおい」
「あら。お早いお帰りで」
「顔にわかめなのか昆布なのか分からない海藻がついてるって店員に笑われたぞ。おい」
「あはは」
「くそっ。気付いて放置しやがったな」
「おかしい。あはは」
「なに泣いてんだよ」
「あなたが。戻ってきてくれて。来てくれないと。思った。のに。わたし」
「店員に笑われたときは、もう、はずかしすぎてだめだったけどな」
「ありがとう。うれしい」
「ほれ。日本酒だ」
「ありがと」
「そしてこれが、店員おすすめのスイーツ」
「日本酒にスイーツ?」
「なんか、スイーツがたくさんあるコンビニだった」
「へえ」
二人ならんで、波止場の何もないところに腰を下ろす。日本酒のふたを開けて。スイーツの袋を開けて。
「うへえ。からくて呑めない」
「だめじゃねえか」
「あっ。スイーツと一緒ならいける。いけるわ、わたし。これ美味しい」
「まじかよ」
「なに食べてるの?」
「おにぎり」
「おにぎりの出す音じゃないんだけど」
「なんだろう、これ。サブレかな。美味い」
「へえ。ちょっとちょうだい」
「ほれ」
「ねえ」
「なんだ」
「なんで身体綺麗なの。どうして違う服を着てるの」
「コンビニで。シャワー貸してくれて、服もくれた」
「そうなんだ」
「何に嫉妬してんだ?」
「あなたの身体。わたしが洗おうと、思ってたから」
「うそだな。俺が戻ってこないと思って泣いてたくせに」
「なによ」
静かに。
ゆったりと。
たわいもない話だけが続く。
「炭酸飲料なのね。お酒は呑まないの?」
「お前が昔の男の話をしたら、呑むかな」
「なにそれ」
「おまえの肚の底にある、その、満たされない何かを。満たしたかったんだ。だめだったけどな」
「昔の男、か」
「変な話だったな。忘れてくれ」
「街と、国、かな」
「は?」
「街と国がね。わたしの恋人だったの。ずっと。あなたに逢うまで。でももう、いいの。あなたに逢えた。あなたと一緒にいられる。それだけで。わたしは」
ゆっくりと。
朝の気配。
「おう。午前四時だ」
「朝が、来るね」
「さすがに、もう限界だろう。波止場にもひとが来るな」
「ねえ」
日本酒を、ぐいっと呑んで。
「なんだ?」
朝陽が昇ってくるのを見つめている、彼の口許を。奪う。
舌と一緒に。日本酒を流し込む。最初は、ゆっくり。だんだん、頬をしぼませて。想いを込めて。流し込む。
「おい」
何か言いかけようとした口を。もういちど、ふさぐ。
今度は舌を絡ませないで。やさしく、あたたかいキスになる。
もう。
ふたりの間に。
言葉は必要、なかった。
⚓ラストクルーズ・アルファ (15分間) 春嵐 @aiot3110
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