2022 第2回 銀河におぼれて
その小さな宇宙船は突然やってきた。はじめは系外彗星かと思われたが、自然由来ではありえない材質や形状であることが観測された。世界は異星人の可能性に騒然となり、持てる技術を駆使してランデヴーに挑む。なんとか接触に成功し調査したところ、それは遥か昔に機能停止した宇宙船だった。内部には生命の痕跡があり、死骸の中心には保存用の加工が施された四角形の薄く柔軟な物体が残されていた。乗りこんだ宇宙飛行士はそれを拾いあげる。その表面にはなにか複雑なものが描かれているようだった。宇宙飛行士は、その生命体の死と、そこに描かれているものに思いを馳せる——。
オフィーリアは、小惑星帯を進む小さな宇宙船の中でひとりノバラに水をやっていた。彼女は他にもいくつかの植物を育てており、手入れをしながらそれらに語りかける。今日もどこからも連絡がないこと、故郷の状況が気になること、そして、彼女が逃げだした宇宙船のこと。
数週間前、彼女は火星へ向かう宇宙移民船に乗っていた。地球は人間が住める場所ではなくなりつつあった。いまも環境の改善に莫大なリソースをつぎこんでいるが、もはや手遅れという見方が大勢を占めている。人類は並行して火星移住計画を進め、彼女が乗るのは民間人をのせた最初の大規模移民船だった。両親が火星暫定政府の重要なポジションにあるため、彼女はその家族として同行できた。
しかし、火星に移住できるのは全人類のうちごく少数でしかない。そんな施策に限られたリソースを割くのではなく、地球環境の改善に全力を傾けるべきだと主張するものも多かった。
そして、移民船の中には特に狂信的な反対勢力が潜んでいた。彼らはオフィーリアの両親らを殺害、地球へ引き返すことを要求した。
混乱の中、オフィーリアは護衛を務めるケンに秘密の脱出艇へと連れられる。しかし、現場を敵勢力にみつかってしまう。敵の迫るなか、ケンによってオフィーリアは無理やり送りだされた。
本来なら、脱出艇は簡単な操作で安全な場所へ向かうことができる。しかし、オフィーリアは両親の死と恋人ケンとの別れで錯乱状態にあった。数日経って少し落ち着いたとき、彼女は積荷の中に芸術保存を目的とした絵画のレプリカや、植物種保存のための種子パックを見つけた。
それから数週間経ったいま、水も食料も尽きかけていた。船内の薬からどれをどれだけ摂取すれば苦しまずに死ねるかは調べてある。最期に、彼女は思い返す。なぜケンは彼女をひとりにしたのか、なぜ両親は殺されたのか、なぜ火星に移住せねばならなかったのか。なぜ——。とりとめのないことを考えながら、彼女は眠りについた。
その直後、通信を知らせる音が船内に響く。しかし、それを聞くのは植物たちだけであった。その後もしばらく植物たちは育ち続けた。その様子はまさに、彼女が自身と同じ名前という理由で手にとり、遥か未来に異星人が拾いあげることになる一枚の絵の情景のようだった。
## アピール文
三期を受講、五期を聴講したが、あいだの四期にはほとんど関わらなかった。選択する課題の数に制限がなかったので、四期の課題からできる限り多くをこなすことにした。つまり、これは「100年後の未来にヒロインが何か(植物)を育てながら長距離を(地球から太陽系の外へ)移動し続ける“あつい”ファースト・コンタクトもので、シーンの切れ目に仕掛けがあり、ラストシーンは20世紀までに作られた絵画(『オフィーリア』)の描写である」梗概となっている。残念ながら取材はできていない。いくつかの課題がこじつけであることも認める。
最初のシーンの舞台は太陽系ではなく、視点も人類のものではない。異星人側の視点から人類とのファースト・コンタクトを描いているわけだが、最後まで読んではじめて気づけるように書いたつもりだ。このアイデア自体は気に入っているが、はたして実作で書けるかはあまり自信がない。
裏SF創作講座 梗概集 フジ・ナカハラ @fuji-nakahara
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