アキラ・ジャックポット
「…ちうことで、狙撃担当はテメーな、アキラ。失敗したら殺すからな…まあアーシが殺さなくても全員死ぬンだけどさ」
今日は定時で帰って置き引きしたいナァ…と考えてボケっとしていたアキラは、その前段を聞き逃していた。
「え…?なんの担当って…アダッ!」
呑気に聞き返したアキラの頭を、ウォーモンガーたみ子のゲンコツが襲う。
「作戦会議中にボケボケしてんじゃねえ、ブチ殺すぞ!」
「アダーッ!」
百手のマサ、二兆億利休、マダム・ストラテジーヴァリウス、柳生ベイダーらが内臓館にて柳生十兵衛暗殺作戦”マウンテンウィンド作戦”を練っている最中、時同じくしてウォーモンガーたみ子一党もまた、自分たち独自の柳生十兵衛討伐作戦”オペレーション・ストーンリバー”を組み立てていた。
「いいか!?”ヤギューバスター”は文句無しに最強だが、あのガイキチに近づくにゃチト機動性が足りねえ。メガロヴァニアの飽和攻撃から、ヤギューバスターに変形するまでの落下の隙が最大のネックだ。そこで、お前の出番だ…って言ってたんだよ、このボケェ!」
「アダーッ!」
繰り返し説明している内に怒りが再燃したたみ子のゲンコツが、再度アキラを襲う。
「ま、待ってよ姉御!狙撃って…デスマッ…じゃねえやウォーモンガー砲で、人間サイズの相手をこっから町田の反対側で狙撃…無理無理無理無理無理!」
「無理なヤツには頼まねえよ!」
「そういうあざとい言い方しても無駄!無理だって!」
「わかった!じゃあ暴力で強制するからなんとかしろ!殺すぞ!」
「まだ、そっちの方が、すんなり納得できるね…」
アキラは力なく笑った。
◆
ウォーモンガータワー指令室。突貫の弾道計算システムで十兵衛狙撃をシミュレートする。十兵衛が止まってさえいれば、100発撃っても100発が当たる。距離を考えれば驚異的な精度だ。
「姉御ほどじゃねーけど、俺もそこそこ天才なんだよな、たぶん…指導教員デスマッドに感謝ってことで…うわっ、姉御!」
「ビビってた割にはすんなりいってるじゃねーか」
「いや、十兵衛が止まってくれてるの前提でさ…」
ボタンを押すと、仮想空間上で101発目の砲弾が十兵衛を狙う。こんどはランダムに十兵衛が動いている前提だが、それでも彼のすぐそばを砲弾が掠めた。
「おお~~っ、惜しい!」
「ああ、まあまあだ、85点だな」
たみ子がアキラの顔を覗き込む。
「だが…本番前にひとつだけ忠告しておく。十兵衛相手の場合『早さ』よりも『落ち着くこと』を第一に考えろ。もし十兵衛を狙撃するチャンスがありながら外したら、町田市民は全員切腹することになるからな。別にプレッシャーかけるわけじゃあねーが…」
「十分、かかりましたプレッシャー…」
◆
色々あって当日!
「柳生十兵衛進路予測システム”ヤギュデス”も無事完成したじゃねーか、アキラ!あとはタイミング合わせてぶっ放すだけだぜ…気合入れろよ~~~!」
百手のマサを追い越し大轟音と共に十兵衛に向かう、メガロヴァニア装備たみ子の無線が指令室に入る。
着弾までの時間を考慮すると、作戦の最初の段階はアキラの狙撃となる。
発射から着弾までの間にメガロヴァニアが中距離からの一斉射撃を実施し、撃ち尽くした隙をウォーモンガー砲が埋めるのだ。
「そろそろ発射タイミングだぜ…アキラ…!」
だが。
発射ボタンにかけたアキラの手が止まる。
その顔は白く、息は荒い。
「おい、アキラ!」
「外したら全滅外したら全滅外したら全滅外したら全滅外したら全滅…」
「ビビってんじゃねー!お前の作ったシステムは完璧だろーが!アーシだってそれ信じて今命張ってンだぞ!お前が自分信じなくてどうすんだボケ!」
「わかってる…わかってるけど…」
当初想定の発射予定点が近づく。
アキラの息はますます荒く、震えが混ざる。
「ハア…ハア…!」
発射予定点を越えても砲弾は発射されない。メガロヴァニアの戦術CPUが再度のナビゲーションを行い、若干の迂回ルートを取る。だが、これ以上遅れれば…作戦の根幹が崩れる…!
「ブン殴られてーのかアキラ!さっさとぶっ放せ!」
「う…うう…」
修正可能な最終点が近づく!これを越えれば、ウォーモンガー砲による支援は間に合わない!孤立したたみ子が斬られるのみである!
「あー…クソッ…ったく…チクショ…わーった、わーったよ!!ウマくいったら、またアレ…使ってやっから!”ごほうびフォーム”で相手してやっから…だから」
その瞬間、アキラの目が光る。
「言質…!取ったァァァァァ!!!!」
アキラの手が録音データの保存と同調したウォーモンガー砲の発射ボタンを押す。その手に迷いは一切ない!
轟音!
ウォーモンガータワーを震わせ、その中心部を貫く超長砲身から砲弾が成層圏経由曲射起動で柳生十兵衛へと飛ぶ!!
「…ッ!テメ…この…クソガキ…テメ、まさか…”この土壇場で腹芸カマしやがった”な!?!?!?!?」
それ以上怒る間もなく十兵衛が視界に入り、メガロヴァニアの全兵装が予定通り一斉射撃を開始する。
やがてウォーモンガー砲の砲弾は十兵衛に直撃し、アキラはウォーモンガー指令室で一人、大きく右腕を上げた。
(終わり)
※これはhaxose(@haxose1)さんのリクエスト「アキラのなんか」を受けて書かれたものです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます