第8話 路上で孤児のように倒れたことに感謝します

「シドニー男爵、もしかしてお爺様に脅されて私と婚約しましたか?」

私は、冗談交じりに婚約者に聞いてみた。


「まさか、僕の顔を見てわかりませんか?目を見て、表情を見て‥‥わかるでしょう?」


「シドニー男爵の‥‥」


「違うよ、グレイソンと呼んで‥‥」


言いながら、私の頬にそっとキスしてきた彼。眼の奥の私を見つめる色あいが、一層熱を帯びる。

この表情は、多分そっくり私のそれと一緒。わかるでしょ?大好きな異性といる時のたまらなく嬉しい気持ちが現れている。


「グレイソンの気持ちは私と同じ」

私は、大胆にも呼び捨てにしてきっぱりと上から目線で言ってみた。

グレイソンは嬉しそうに笑って、『その通りだよ』と言った。


私は、大好きな彼の顔に唇を近づけてキスをねだった。彼は喜んでしてくれた。でも、ちょっと多い。5回目で私は怒ったの。お化粧がとれてきちゃし、ドレスも乱れちゃう。


最初、見た時から一目ぼれだったことは内緒だけれど、きっとばれている。だって、私は彼といる時は蕩けそうな笑顔になっているもの。手を繋いでノア公爵家の馬車に乗ると彼の腕に自分の腕を絡ませた。


今日はグレイソンと夜会に行く日だから、とてもおしゃれをしていた。ドレスの上に毛皮をまとい、銀髪は侍女に綺麗に夜会巻きにしてもらい少し大人っぽくしてみた。

グレイソンが私の手に何度もキスをしながら、愛を囁くから私は夢心地でいる。豪奢な馬車の窓からはもう鉛色の空は見えない。白い雪がまたふわりふわりと落ちてくるけれど今の私には、それは砂糖菓子のように見える。雪の冷たさはもう感じない。


横に愛する人がいて、屋敷には大好きなお爺様がいて、優しく支えてくれる侍女達がいて、今では社交界にたくさんの友人がいる。心も体も、ほんわかと温かくなんの不足もないこの幸せに感謝します!!


神様、私を孤児のように路上で倒れさせていただいて感謝します。



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王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる 青空一夏@書籍発売中 @sachimaru

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