第7話

しばらくして、私は会社に辞表を出した。

上司は少し躊躇ったが、私の表情を見て色々と察したように受け取った。

「お世話になりました。」

「・・・本当に、いいのか。」

「自分勝手な事情で、本当に申し訳ありませんが。」

「いや、自分の体調が大事だからな。

もし、可能であれば戻ってきてくれ。」

ここに居ると、きっと思い出してしまう。

仕事終わりにあの人に会いに行っていた毎日。


あの後ろ姿。左手の薬指の銀の輪。

「真希。」

優しく呼ぶあの声。


あれから祐希とは最初から何も無かったかの様に連絡も取っていない。

相手側の奥さんに洗いざらい言ってしまおうかと祐希の自宅まで行ったこともあった。


その時に見てしまった。

出勤する祐希を優しく見送り、幸せそうに、大切そうにお腹を撫でる姿。

そこには祐希と同じデザインの銀の輪がキラキラと輝いていた。

真実を言えるはずもなかった。


昼下がりの公園。

ベンチに座って携帯を開き、祐希の連絡先を出す。

この連絡が来て何度幸せな気持ちになったか。

でも、もう終わり。

あの人の銀の輪の相手は私じゃない。

「さようなら、祐希。」

そう呟き、連絡先を消去した。


「お姉さん!」

ふと声がして携帯から顔を上げると、1人の女の子が立っていた。

「なあに?」

「これ、あげる!」

その子の手には銀紙で作られた小さい銀の輪があった。

「なんで私に?」

「なんか、寂しそうにしてたから。元気出してね。」

そう言うと女の子は小さく手を振り、お母さんらしき人と歩いて行った。

貰った銀の輪は小さく、私の小指にしか嵌らなかったが、今までで1番キラキラと輝いている様な気がした。



「真希先輩!」


本物の銀の輪を着けられる日も近い事を告げるかの様に。



銀の輪 ~完~









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銀の輪 舞季 @iruma0703

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