第五章 ただそれだけのこと


「は?好きって伝えただけ?」


「うん?」


「えっと〜付き合ったりとかは?」


「好きって気持ちを伝えられただけで満足しちゃって言ってない…」


翔は昨日の如月さんの妹と俺が一緒にいる所を目撃したらしく問い詰められているのだが、正直に話すと呆れられてしまった。


「お前がこれからどうするかなんて決まってんじゃん」


如月さんがどう思ってるか分からない。俺は如月さんの思いを尊重したい。でもできれば恋人と言う特別な関係になりたい。


「答えは決まってるんだったら今日の放課後それを話したら良いんじゃないか?」


「分かった。そうしてみる」


まさか翔に恋愛相談するとは思わなかったな…


昼休みが終わり、話したい事を考えていると早くも放課後が来てしまった。


「あのッ!!」


後ろから声をかけられ振り返る。如月さんは両手で鞄を前に持ち、何とか言葉を発したようだ。


「今日、一緒に帰りませんか?」


「う、うん」


彼女の勢いに押され、一緒に生徒玄関へ向かう。校門を離れ少しして、彼女が話し出した。


「あの、迷惑でしたか?」


恐る恐るといった感じだ。彼女を不安にさせたのは申し訳ない。


「ううん。嬉しかったよ。如月さんの方から誘ってくれてちょうど話したいこともあったし」


「?」


「俺は、如月さんの事が好きだから如月さんの特別になりたいんだ。でも、それと同じように如月さんの気持ちも尊重したい。えっと…つまりー」


彼女の目を見て話す。顔が熱い。少し唇が震えうまく言葉にできなかったかもしれない。

俺が言葉にする前に彼女は行動した。俺に抱きつき細い腕を背中に回し、ギュッと締め付ける。いきなりの事に頭が真っ白になる。


「私ね、昨日帰って妹に言われたの」


『あそこまで御膳立てしてあげたのに好きですって伝えただけで返ってきたの?』


「私、木乃江くんに好きって言う自分の気持ちを押し付けただけになってないかなって私だけ考えて、悩んで無いかなって思ってたから木乃江くんが真剣に悩んでてくれて嬉しい。私を木乃江くんの彼女にしてください」


顔が熱い。さっきよりも。そして胸がギュッと苦しくなり、如月さんがさらに愛おしくなった。人はこれを恋と呼ぶのかもしれない。


夕焼けの天は俺たちを照らし、また、俺たちの明日を照らしてくれると願いたい。


「どんな事があっても、どんな未来が待っていても俺は如月さんを守るよ」


それはいずれ、綻びを生み、亀裂を生み、壊れていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日の君が明日の君を殺すだろう。 @hatimitu76300

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ