ジョニー家のジョニー

亜済公

ジョニー家のジョニー

 ジョニー・ジョニーはジョニー家の次男として生を受けたが、彼自身がそれを望んでいたわけでは決してなかった。望んでいたわけではなかったのだが、望まないというわけでもまたなかった。つまり、どうでも良かったのだ。

 彼の父親はジョーニー・ジョニーという名の地主であり、母親はジュリー・ジョニーという名の夫人であった。ジョーニーは極めて自己愛の強い男であり、多彩な帽子を十も二十も積み上げて、一つ一つ、鏡の前で被ってみるのが趣味だった。そんな時、ジュリーはそばに控えつつ、夫がひとしきり鏡を眺めた後に、「ほうっ」という短い息——どこか生々しく、助平な感じのする息——をした途端、素早く次の帽子を載せてやるのだ。少しでも遅れてしまったならば、ジョーニーは機嫌を損ねてしまう。それは避けねばならなかった。

 一方で、ジュリーの趣味は何かというと、これは息子——ジョニーではなく長男ショニー——に、服を着せることである。ジュリーは自ら寸法を計り、生地を裁断することから始めたスーツを、週に一度は息子に着せて、小一時間も眺めるのだった。彼女の服はごくたまに、服らしき形をとることはあれど、大抵の場合は謎めいた塊にとどまっている。例えばついこの間などは、布切れのイボが数十数百と垂れ下がる、隣人ジョリー家の敷地の塀によく似た「何か」が完成した。「母上、このイボは何ですか」と、長男ショニーは母に尋ねる。「ポケットですよ、愛しいショニー」彼女は微笑みながらそう答えた。「沢山あれば便利でしょう」。ショニーはなるほどと頷いて、趣味の爪磨きを始めるのである。

 そういう家庭であるからして、ジョニーの生涯は常識にとどまるはずがなかったのだ。

 さて。ジョニーはある朝、起きるとまずパンを食べた。巨大なフランスパンである。尻尾ではなく、頭からかじる。頭を失ったフランスパンは、悲鳴をあげることもなく、ビチビチのたうって死んでしまう。愉快愉快とジョニーは笑う。フランスパンがパンである以前にフランスであるのはよく知られた事実であるが、生物でもあることを知る者は少ない。

 ジョニーはそれから、散歩を始める。執事のジュファニーが花壇に水をやりながら、「おはようございます」とお辞儀した。「母さんが今作ってる服、僕のものかな、それとも兄さん?」執事は答える。「お兄様のものでしょう」。ジョニーの服が作られたことは一度もなかった。

 ジョニー家の屋敷はこの辺りでも一際大きい。敷地はフランスパン三つ分で、周囲を高い塀が囲っている。ネズミが入る隙間はないのに、泥棒はしょっちゅうやってくる。ジョニーは泥棒に殺されてしまった。

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ジョニー家のジョニー 亜済公 @hiro1205

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