刑罰:ライノー・モルチェト封鎖監禁指令
現状はおおむね把握できた。
結論としては、絶望的な状況だ――と、判断するしかない。
ブロック・ヌメアの地下牢に閉じ込められ、両腕、両脚を鎖によって繋がれた。明かりはごくわずかな、檻の外で燃える蝋燭の炎だけだった。
こうなると、ライノーにも脱出する術はほぼない。
唯一、『この肉体』を破棄する方法が残されているが、それは本当に最後の手段だった。それに移動中を発見されたら、攻撃を受けるだろう。この要塞の人々にとって完全な敵として認識されるのは間違いない。
あるいは、誰か兵士の体を奪い取る方法は可能だろうかと考える。奇襲を行えば無理ではない。肉体の奪取までは成功するかもしれない。
(でも、潜伏はできない)
ライノーはそれほど自分の擬態能力を信用していない。
人間同士の関りは、魔王現象のそれとはまるで違う。誰かに成りすますには、その人間についての詳細な情報が必要だ。そうでなければ簡単に露見する。
地下牢で『この肉体』が死んでいるのがわかればなおさらだ。
(それに、兵の誰かの肉体を乗っ取って、それから――それからどこへ?)
ライノーには何も思いつかなかった。
この世に彼のような存在を許容してくれる組織は、懲罰勇者以外にあるだろうか? 結局のところ、そこに行きつく。懲罰勇者部隊こそ、彼が彼として生きることを許される唯一の居場所だった。
もしも楽園というものがあるのなら、彼にとってそれは、懲罰勇者部隊という集団と、彼らとともに渡り歩く戦場の形を取っていた。
だから、ライノーにできることは何もなかった。
牢獄を見張る看守は、半日ごとに入れ替わっているようだった。ライノーが見える範囲にやってくるのは日に一度、半ば腐ったような食事を差し入れるときだけで、話しかけても何も応じなかった。
いや――。一度だけ、階級の高そうな男がたくさんの兵を引き連れてやってきて、宣言したことがある。
「貴様は、王国裁判に送られることもない」
立派な髭の男だった。事前の情報から判断すると、軍の総帥だろう。マルコラス・エスゲインといったか。彼は危険だと押しとどめようとする兵を制して、ライノーに相対した。
「この場で解剖される。貴重な、生きた魔王現象の検体だ。聖都キヴォーグからやってくる学士たちも喜ぶだろう」
そうして、マルコラス・エスゲインは自分の言葉に満足そうにうなずいた。
「人類の役に立ってもらおう」
それきり、彼らは去った。訪れた者は誰もいない。あとは暗闇の牢獄で、かすかな蝋燭の明かりだけを見つめていた。
(人類のため、役に立つ――か)
悪くはない、とライノーは思った。
この体の持ち主も、人類を救う英雄たらんと望んでいた。それが自分の末路なら、選択肢の一つとしてはあり得た。だが――本当に末路だろうか? 末路としていいのか。
この状況に自分が追い込まれたのは、何者かの意志を感じる。
発覚したことにはきっかけがあるに違いない。それは間違いなく魔王現象の仕組んだことだ。
ライノーが魔王現象の主だと類推できるとしたら、それはただ一人。
この状況をすべて支配し、干渉している者。
(いいね)
ライノーは暗闇で、一人で笑った。
(魔王の王。きっと、彼だろう)
その死を演出するのは、自分でありたい。王の恐怖を引き出し、絶望で彩ること。それができるならば、あとは消え去ってもいいとさえ感じる。無限に散らばる魔王たちの死骸でも及ばないほど荘厳な、唯一絶対であるはずの者の死。
その死を思い返すだけで歓びに包まれる。その記憶さえあれば生きていける。そんな最期を見たい。魔王の王を殺せるならば、自らのすべてを投げ打つことができる。
――ライノーは、深い闇の中でそう思った。
そのために外界の情報を半ば意図的に遮断して、未来の可能性を探った。ほかにできることもなかった。
(こんな風に、暗闇で、追い詰められたことがあったな)
あのときも、同じように絶望していた。
ここで終わりたくはない。
しかし方法はあるだろうか。ライノーの合理性は、この牢獄を逃れられないであろうことを告げている。脱獄の可能性は低すぎた。逃れ得たとして、その後はどうなる?
何もできることはないかもしれない。
いや、この期に及んでは、未来の可能性などというものは検討する意味がそもそもないだろうか。未来はもうとっくに途絶えているのではないか。
「――おい」
不意に、声が聞こえた。それはライノーの意識を現実に引き戻す声だった――静穏な絶望から、苦痛に満ちた現実へと。
「いい身分だな。こんなところで呑気に寝てやがる」
「寝ていないよ」
ライノーは自分が目を閉じていたことに気づき、開いた。長身の男がいる。ザイロだ。いつも通り、怒ったような険しい目でライノーを睨んでいた。
幻覚ではない、と思う。ライノーは目をもう一度、瞬かせた。
「同志ザイロ。……なんで、きみがここに?」
「俺たちがまた無茶な任務を吹っ掛けられそうだってときに、一人だけ休んでるやつがいる。それが許せねえんだよな」
ザイロは早口で言って、牢の錠を掴んだ。ばきん、とくぐもった破壊音が響く。
壊した。よく見えなかったが、聖印を使ったのかもしれない。
「ここを出ろ。脱獄させてやる」
「……外の兵士は?」
「寝てる」
排除してある、という意味だろう。ライノーはそう解釈した。
「質問してもいいかな、同志ザイロ。なぜ、こんなことを?」
「知るか。ンなことよりも――お前、首の聖印。どこまで本物なんだ? 効果はあるのか? 脱獄したら、上層部はお前のその聖印を起動して即死させるだろう」
「……僕の、これは」
ライノーは自分の首筋に触れた。
「もちろん本物だ。きみたちと通信もできるしね。ただ、懲罰機能が完全に有効に働くわけじゃない」
言葉を切り、息を吸う。ここからは、彼自身の安全にとって重要な情報になる。
それでも、言うべきだった。
「聖印を起動して即死させられるのは、あくまでも『この体』だけだ。生命活動が止まるだけなんだよ。僕は――この僕、魔王現象パック・プーカは、変わらずこの体を操作して行動できる」
「居場所は? その聖印は俺たちを追跡することもできる」
「一部を抉り取って、聖印を破壊しておくよ。もちろん、本来、それをやったら即死する。だけど、僕なら大丈夫だ」
「じゃあ、問題ないな」
「そうかな」
問題はあるだろう。主に、ザイロの方に。
「きみが僕を脱獄させたと知ったら、タダでは済まないと思うよ」
「一度は殺されるだろうな」
それどころではなく、監視付きで拘束され、ほぼ即死の任務を連続して割り当てられることになるかもしれない。かつて、そういう目にあった懲罰勇者がいた。ジェイスやザイロが加入する前の話だった。
「だが、次の派遣先は砲撃都市ノーファンだ。どうしてもお前の腕がいる。あの街には、俺もそれなりに詳しいからな」
砲撃都市ノーファン。その詳細については、ライノーもよく知らない。『この体』の持ち主も訪れたことはなさそうだった。
「それに俺は、こんなところで一人だけサボってるやつを許せねえ。ぶっ殺すぞ」
「申し訳ないね。心が痛んでいるよ」
「わざとらしい顔と台詞はやめろ。だいたい、脱獄が完璧にうまくいくかもしれないだろ――こっちは覆面で来たから、まだ俺の顔は見られてない。ここの兵士が間抜け揃いで、うまく外の警備を速攻で片づければ可能性はある」
「でも、ほぼゼロだと思うな」
それでも、ライノーは立ち上がっている自分に気づいた。自分の顔に触れてみる。笑っている――笑顔を作っているようだった。
「僕はこの計画が失敗する気がしている。やめた方がいいんじゃないかな」
「辛気臭いことばっかり言うな。とにかく黙ってついてこい」
ザイロはライノーの胸倉をつかむようにして牢から引きずり出した。
手の枷。足の鎖を、それぞれ掴んで破壊する。ザイロにはそれができた。爆破の聖印。ライノーが自由になるまで、十秒とかからない。
「いくぞ」
「うん。了解だ」
とは答えてみたものの、足元がふらつく。どのくらい閉じ込められていたのだろう。そのせいで、運動能力が衰えている。
「しっかり歩け。遊んでるんじゃねえ」
「そうだね」
二歩、三歩。それで歩き方を補正する。思ったより難しいことではなかった。
「ここから看守室を通って、地上に出る。そこから内壁を突破するのが難しいところだな」
「うん。なかなか大変そうだね。作戦はあるかい?」
「壁を越えるか、門を吹っ飛ばすか。状況次第だ。お前、なにか隠してる便利能力とかないよな」
「残念ながら」
第一の《女神》によって再召喚できるとしても、逃走し、潜伏しなければならない状況で使える手ではない。よって――
「この、いまの状態で有効な手段は思いつかないね。せめて同志ドッタがいれば、何か閃いてくれたかも」
「あいつはまだ厳重監禁中だ。ベネティムのアホがいないせいで、牢から出す言い訳がうまくいかねえ」
同志ベネティム。
敵は明らかに彼を狙っていたのだろう。自分が排除されかかっているのは、その副次的な効果にすぎない。
ライノーはベネティムの有用性について、それなりに分析はできているつもりだ。しばらく懲罰勇者部隊は、さらに際どい作戦を成立させていかなければならない。その作戦の前提となる勝利条件、敗北条件そのものを操作できるのがベネティムだった。
「厳しくなるね、これから」
「いつだってそうだし、わかってたことだ」
ザイロは吐き捨てるように言った。ついでにライノーを突き飛ばすようにして、自分で立たせる。
「急げよ。遅れたら置いていく。そんな役立たずを助けに来たわけじゃないからな」
◆
地上へと駆け上がると、すでにあちこちが混乱していた。
笛が吹き鳴らされ、聖印による照明器具と、松明が走り回っている。――ただし、それは要塞の西側――ライノーたちが抜け出した牢とは、また別の方向だった。
何かが騒ぎを起こしている。ライノーはそう推測した。
「これは、何が?」
「協力するってアホがいた。説明してる時間が惜しい。とにかく走れ」
ザイロはライノーの肩を掴み、思い切り突き飛ばした。同時に駆けだす。
(いまのこの体に、大変な要求をしてくるものだ)
ライノーはまた、自分が笑顔を作っていることに気づいた。そうだ。英雄の要求はいつも厳しいのが当たり前だ。それについていく機会が与えられたこと、それ自体が信じられないくらいの幸運だと思う。
ゆえに、遅れることはできない。
ライノーは肉体のあちこちに己の「菌糸」を伸ばし、張り巡らせる。身体機能を補佐し、活発化させる――ザイロの影を追って走る。
(いける)
空には緑色の月が、おぼろげに浮かんでいた。
間もなく雲がかかるだろう。それは逃走に有利なはずだ。「協力者」である何者かの攪乱も有効に働いている。
それでも、やはり問題はあった。行く手の北門はしっかりと塞がれている。兵士が十人。ザイロと二人で薙ぎ払うにも、一瞬では無理だ。何人かには顔を見られて、逃げられるだろう。
(ザイロの期待より、『間抜け』な兵士ではなかったね)
ならば、確実な手段は一つしかない。
そんなライノーの思考を見抜いたように、ザイロは低く唸った。
「殺すなよ」
「難しい注文だね」
「門を吹っ飛ばす。北へ走れ。少しは時間を稼ぐ」
「きみは?」
「俺はどうせ一回死ぬ程度だ」
「取り返しのつかないことになる一回かもしれないよ。記憶だけじゃなくて――」
「ここまでやったんだ。いまさら遅い」
ザイロは陰鬱に言った。そうかもしれない。
北門が近づいてくる。ライノーとザイロは速度をあげる。ザイロは布を顔にまきつけているが、どの程度効果があるだろうか。顔が見られれば、首の聖印で即座に「処理」される。
それまでが勝負だろう。できるだけ正体の露見を遅らせ、ザイロの行動を無駄にしないためにはどうする。
(やるか。
と、ライノーが思考を高速で進めたとき、それは唐突に降ってきた。
そのようにしか思えなかった。
ばっ、と、異様な音がして、十人の兵士がほぼ同時に倒れた。
何か、異様に長い刃物が旋回したようだった。ほんの一呼吸の間に、三度ほど。首が千切れ飛び、胴体が潰れた者もいる。血飛沫。防御も回避も許さない、凄惨な一挙動。
確実なのは、それはたしかに「攻撃」であり、それが完了したとき意識を保っていた兵士はいなかったということだ。
異様なほど猫背の、巨大な戦斧を両手に持った男。死人のような顔。薄汚れてぼろぼろになった異様な衣服。
ライノーはその顔、その姿をよく知っていた。
「同志タツヤ?」
ライノーは驚き、ザイロを見た。
「彼が『協力者』?」
「いや――違う」
どういうわけか、ザイロも驚いていた。タツヤを指差し、口ごもり、どうにか――といった様子で言葉を絞り出す。
「なにやってんだ、お前?」
答えが返ってくるとは思っていなかった。タツヤがまともな言葉を発した記憶は、ライノーが知る限りでも存在しない。
だが、このときは違った。ライノーを上目遣いに見据え、タツヤは口を開いていた。
「――おれも、そいつを、助けるのは……本当は。気が進ま、ないんだよ」
途切れがちで、発音にも苦労しているようだったが、それはたしかに言葉だった。喋れたのか。ライノーは思わずザイロと顔を見合わせた。
タツヤは構わず、その先を続ける。
「しかし、必要、らしい。それについては……賛成……する。だから、緊急的に、こうして、操作権を、ふ……復旧。一時的に。したんだ」
「タツヤ、お前、なんていうか――」
ザイロは何を言うべきか迷っていた。結局、出てくるのはひどくありふれた言葉だけだ。
「なんなんだ?」
「おれ。おれは……何か? おれは……」
タツヤは背を向けた。
「勇者」
北門。その重苦しい鉄の門に、両手の戦斧を一閃させる。狙ったのは閂だった。どういう手を使ったものか、斧に細工でもあるのか。閂はそれで切断された。
ザイロが呆れたように目を細めた。
「マジかよ。タツヤ、お前の腕力、ちょっと異常だぞ」
「あ。ああ……、ずるをしたよ。それは、いまどうでもいい」
タツヤは顎でライノーを促す。
「ライノー。逃げる、ぞ。馬を、よ、用意してある」
「待て。お前、首の聖印ですぐに殺されるぞ。よくこんな馬鹿な真似を」
「あんたよりは、まし、さ。ザイロ」
そう言われると、ザイロは黙った。タツヤは笑いもせずに門を肩で押す。音を立てて開き始める。
「おれも、そいつ……と……似たようなものだ。聖印で……殺されても……動く。ことが。できる。自動……的に……肉体が破損するまで……。だから、できる」
タツヤはザイロを正面から見た。初めて目の焦点が合った気がする。
「ノーファンで……の、戦いに、こいつが、必要になるまでには……戻る。おれたちが問題なく戻れる、ように、あれ……ベネティム……を、働かせてくれ」
「もともとそのつもりだった。あの馬鹿になんとかさせる。タツヤ、お前には聞きたいことが山ほどあるが――」
「いまは、それどころではないね」
ライノーは微笑み、足を進める。門の外へ。北に広がる荒野に向かって。
「きっと帰るよ。この世に僕の居場所は、きみたちの傍しかないんだから」
これに対して、ザイロは顔をしかめ、タツヤはため息のような呻き声を漏らした。
「そうかもしれんが、気持ち悪いからさっさと行け」
「ま……まったく同じ意見、だ、な。同行するけど、無駄口を叩かないで、ほしい……置き去りにしたく、なる、から」
この二人は手厳しいな、とライノーは思った。
あるいは、どこか似ている。
◆
「――ザイロ。うまく、行きましたか?」
俺が部屋に戻ると、テオリッタはまだ起きていた。
外が騒がしい、だけではない。この計画の首尾が気になっていたのだろう。
「私は反対しましたからね」
その声には、非難が一割。あとのすべては安堵だった。生きて戻ってくる可能性は、そう高くはないと教えていた。だから徹底的に反対された。
それでも最後には折れた。
「なんでこんなことをするんですか、いつもいつも」
テオリッタが頭から突っ込んできた。
避けることはできたかもしれない。ただ、俺はその頭突きを腹で受け止めた。そのまましがみつかれる。もう少し姿勢を低くすれば、綺麗なタックルになったような気がする。
「……あの子も、無事でしょうか?」
「もう引き上げてる頃だろうよ。敵を見つけたけど、誤報だったってことになる手筈だ。それでなくても『聖女』にそう簡単に手は出せない」
協力者は、ユリサ・キダフレニーだった。
何らかの責任感を覚えていたのかもしれない。ライノーを助けるために協力する、という話を持ち掛けてきたのも彼女からだった。もともと実行するつもりだった俺は驚いたものだ。
それが何かの罠であったとしても、選ぶ道はなかった。
「本当に、《女神》に――心配をかけさせるなんて! 聖騎士失格ですよ、本来なら!」
テオリッタは俺の胸に拳を叩きつけてきた。思わず笑ってしまうような威力しかなかった。
「助けない方がよかったって?」
「そうは言っていません」
「俺は少し後悔してる」
「……後悔、できることはいいことです。記憶が残っているということですから」
「そうだな」
「本当に良かった」
テオリッタは少し泣いているのかもしれない。
わずかにうつむいた表情をよく観察しようとしたところで、唐突に彼女は顔をあげた。
「――そういえば! ザイロ! あなたに聞くべきことがありました」
「なんだよ」
間違いなく面倒な質問だ、という予感はあった。テオリッタの目が炎のように燃えたからだ。
「パトーシェに、フレンシィ・マスティボルト。ユリサ・キダフレニー。あなたには親しい女性が複数いますね?」
「親しいか?」
「親しいです! それだけではないですよ。フレンシィはあなたといまだに結婚するつもりでいます。そう主張を繰り返しているではありませんか」
テオリッタは目を見開き、俺の鼻先に指を突きつけることまでした。
「どうするつもりなのですか?」
「どうもしねえよ」
「本当のことを言いなさい!」
「本当のことだ」
俺はテオリッタを引きはがした。見下ろすのではなく、正面から見るためだ。
「懲罰勇者に結婚なんて仕組みはない。誰が誰と親しいから、誰かを好きだからって、なんの意味がある?」
最終的には、それがすべてだ。
何ら意味のある物事にはならない。懲罰勇者は死んでも戦い続ける亡霊のようなものだからだ。例外があるとすれば、それは――
「だからな、テオリッタ。俺は、」
「では、恩赦が出れば?」
テオリッタは俺の鼻先を指で突いた。
「懲罰勇者ではなくなれば? 真面目に考えますか?」
「いまも真面目に考えてるし、そんな日が来るか?」
俺はタツヤを知っている。一時的に魔王を撃退したとしても、未来永劫、決して魔王が出現しないという確証を得られない限り、恩赦はない。つまり、ありえないことだろう。
「私は剣の《女神》。もっとも偉大な《女神》です」
テオリッタは尊大に腕を組み、胸を張った。
「もう怒りました。本当に、本気で、魔王現象を根絶してみせます。そうすれば、恩赦が出ますよね」
「本当にそれができたらな」
「そのときは!」
剣の《女神》、テオリッタの髪が燃え上がり、火花を散らした。
「真面目に考えるのですよ、我が騎士! あなたの女性関係はだらしないと思います! そういうのは、断固、許しませんからね!」
俺は返す言葉を失った。
本当に今日はひどい一日だ、と思った。
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