お遊びのその後
三人のお遊びは終わり、定期測定は一時中断となった。
理由は至って単純で、予期せぬ童話の住人が暴れ回った事によって訓練所が破壊され、教師が一名怪我を負ってしまったからだ。
生徒は同様と現状がいまいち掴めないまま訓練所上部にある客席へ集められ、遠巻きに破壊された訓練所を見ている。
教師陣に至ってはどうするべきかと話し合っている最中なのか、クレーターができた場所で肩を寄せ合って唸っていた。
そして、この状況を作り出した元凶はというと────
「もうっ! こんなになっちゃって……何してるの三人共!?」
アリスの高い声が訓練所に響く。
その声には可愛らしい怒気が含まれており、腰に手を当て怒っていますとありありに伝えていた。
「「「ごめんなさい……」」」
そして、そんなアリスの前には三人の姿が。
一人はアリスの専属護衛であるチェシャに、同じクラスメイトであるマザー、そして突如乱入してきたリム。
三人は、しゅんと項垂れながら硬い地面の上で正座しながらアリスの説教を受けていた。
「皆に迷惑かかっちゃったでしょ!? どうしてこんな事したの!?」
「久しぶりの再会が嬉しくて……」
「遊びが楽しくて……」
「チェシャくんとマザーちゃんが何か面白そうな事をしてたから……」
「言い訳しちゃダメなんだよ!」
「「「……はい、ごめんなさい」」」
アリスの一喝に大人しく謝る三人。
その姿は、訓練所にクレーターを作り、そびえ立つ壁を残し、訓練所のあちらこちらを破壊した人物とは思えなかった。
「というか、チェシャくんってアルカちゃんとリズちゃんと仲良かったの!? 私、全然知らなかったんだよ!」
「アル……リズ……待って、誰そいつら?」
突如挙がった名前に疑問符を浮かべるチェシャ。
「あぁ、この世界ではボクの名前はリズベットというんだ。それで、リムがアルカという。彼女は、一応子爵の娘だよ」
「よろしくねぇ〜」
なるほど、と。チェシャは頷く。
チェシャがライカという名前があったように、どうやら二人もちゃんとしたこの世界での名前があったようだ。
「というか、俺ってば悪くない訳ですよアリスさんや? 主に壊したのってマザーとリムねぇだし」
「君はこの状況でボクを売るのかい!?」
「そういうの良くないとお姉ちゃんは思うなぁ〜」
「いや、俺ってば基本的に隠密系の役割だし? お前達がこんなにハッスルしなかったら、こんな事ならなかっ「……チェシャくん?」……はい、俺も悪いです」
罪を擦り付けようとしたチェシャはアリスの眼光を見て、その場に頭をつけた。
どうにも、アリスの怒った姿を見てしまうと頭を下げてしまう。
「(このアリスには何故か逆らえない……やはり、彼女はボク達の知るアリスと同一人物である可能性が高いね)」
「(そうだよね……お姉ちゃんも、昔からアリスちゃんだけには逆らえなかった気がするもん……)」
「(俺も逆らえなかったなぁ……年がら年中、頭下げっぱなしだった気がする。普段は可愛い小動物みたいなんだけどなぁ……?)」
「(おや? 惚気かい? 君は相変わらずアリスにはベタベタだな)」
「(ずっとそうだったよね〜♪ これも愛なんだよねぇ〜)」
ヒソヒソと、三人はアリスに隠れながら話す。
昔から何故かアリスという少女には逆らえなかった三人。普段は愛くるしいの一言なのだが、怒ったら何故か怖い。そこまで怖い雰囲気は醸し出していないのだが、本能が逆らうなと言っているかのようで、反射的に頭が下がってしまうのだ。
それが転生した今もなお続いている。
三人の中で余計にも『アリス転生説』が強くなった瞬間であった。
「ほら、今から先生達に謝りに行くよ! 迷惑かけたらごめんなさいしないといけないんだよ!」
「え、俺が謝るの?」
「このボクが人に頭を下げる……? 何の冗談だい?」
「世界一のお姉ちゃんが謝るのはおかしいと思うなぁ〜?」
「いいから行くの!」
「「「……はい」」」
アリスに促され、逆らえず渋々教師が集まる元へ歩く三人。
その姿からは、威厳もくそもなかった。
♦♦♦
「……あの生徒は、これほどまでに強かったものか?」
元凶から頭を下げられた後、訓練所に残った教師はアリスに連れられ落ち込む三人の背中を見ながらそう言った。
「いえ……アルカ・ガラード、リズベット両名はそれほど定期測定での成績は目立っていませんでした。それこそ、他の生徒よりも劣るぐらいの成績です」
「では先程のアレは一体なんだというのだ?」
「あんな魔法など、教師である私ですら聞いた事も見た事もない!」
「それに加え、あの少年もただの一般人ではなかったのか!? それなのに……」
口々に三人の話題が挙がる。
マザーとリム。二人は、この世界で己の権能を見せびらかした事がなかった。
それは変に目をつけられてしまうからの他にも理由はあるのだが、とにかく目立つような事は避けていたのだ。
しかし、チェシャが現れた事によって、自制が崩れ、こうして遊びに興じてしまった。
もちろん、それを見ている人間は多い訳で、こうして教師の頭を悩ましてしまうのも仕方ない。
「学園長に報告するべきだろう……」
「荒波は立てなくないが、ここで我々がどうこう考えていても仕方ない……」
「そうですね……私達では手に負えない可能性もありますから」
結論は上に委ねるという事で。
教師陣の話し合いは終わり、定期測定は正式に中断という先送りが決断された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます