第29話 卒業

 未咲「ついに、この日がきたね……」

 玲香「そうね」


 そこに、ありふれた感情すらない。

 わたしはただひたすらに、先を見据えている。


 未咲「卒業式のときにもよおしちゃったらどうする? そのまましちゃおっか」

 玲香「それもいいかも」


 念のため、漏れないようにおむつ、パッドなど厳重に対策はしているけど……。


 いざそのときが来ても、なかなかそれをする気にはなれなかった……。


 未咲「れいかちゃんどうしてるだろ……」


 苗字がび、からはじまるので、後ろを振り返りたくてもできない。そんなことをしたらふまじめだとおこられる。


 未咲「あれ、なんでわたし、ここに立ってるんだろ……」


 ふと、むかしが恋しくなってしまった。


 未咲「道路のわきで間に合わなかったとき、何も言わなくても前に立ってくれて嬉しかったな……」


 一滴こぼれ落ちる(涙が)。


 未咲「でも、もうさよならなんだね……」


 体育館はとくに冷えるから、抑えもそんなには効かない。

 もう出はじめているかもしれない。そう思ったときには音がしていた。


 未咲「聞こえてないよね、大丈夫だよね……」


 玲香ちゃんになら、聞こえてもいいんだけど。


 玲香「んっ!」


 周りに聞こえそうな勢いで出してみる。もうここに思い残すことのないくらいに。


 玲香「(未咲、聞いて……!)」


 くぐもって聞こえるはずもないと知りながら、未咲に届けと言わんばかりに放出する。


 玲香「(これでおしまいね……)」


 つつがなく式は進み、わたしはそのまま空港へ。

 数年の留学を経て、着実にキャリアを積む予定。

 果たしてどうなるかは知らないけど。


 玲香「さよなら未咲、またどこかで逢いましょ」


 そうつぶやき、機内に身を任せる。


 玲香「わたしはこれから、すごい人になる」


 旅立ちの日は、驚くほど快晴だった。


                   あいすくーる! 終

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あいすくーる!2020 01♨ @illustlator_msr

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