第28話 よーく見てて……
未咲「どうしよう、玲香ちゃん……おしっこしたくなってきちゃった……」
この科白を聞くのももう慣れた。ただ、最近の未咲はこれまでとは比べ物にならないくらいの恥じらいを覚えていた。
未咲「すっごく恥ずかしいんだけど、もう我慢できないからここでするね……」
人が変わったよう。どこか頭でも打ったのだろうか。
未咲「いやらしいにおいとかまき散らしちゃうことになっちゃうけど……嫌いにならないでね、玲香ちゃん……?」
正直そこまで意識することはないけど、いまの未咲はそう認識しているらしい。
未咲「んっ、んんっ……」
我慢する仕草は同性であるわたしから見ても一級品と言ってよく、ネットかどこかで仕入れてきたのかというほど扇情的だった。
未咲「あのね、いまちょっと出ちゃったかも……」
いらない報告。恍惚とした顔。何をとってもわたしにはピンとこない。
でも、未咲本人はとっても楽しそう。何が彼女をそこまでさせるのか。
未咲「じゃぁ、これからスカートめくるけど、まじまじと見ないでね……?」
どきどきしっぱなしなんだろうけど、わたしはここをクールに済ませたい。
と、思っていたのに。
未咲「ねぇ、玲香ちゃん……」
目をまっすぐに見ながらそう呼ばれて、次のひとことを待つ。
未咲「わたしがいいよって言ったら、そのままゆっくりおしっこのところまできて?」
それはつまり、
未咲「おしっこするところ、ちゃんと見ててほしいの……」
正直何がどうなっているのかわからないようでわかる。きっと着衣なんだろう。
未咲「わたしが無類のおもらし好きだってことは知ってるよね……?」
もうそのまま漏らしちゃいそうな笑みを浮かべると、身震いの回数も増える。
未咲「わたしね、きのうから玲香ちゃんの前でおもらしすることばかり考えてて、夜はしっかり寝たんだけど、朝起きてからトイレは一回も行ってないんだ……」
そう言って、きつめに太ももを閉じる。
未咲「もう、我慢できないっ……やだっ、おもらししたくないよぉっ……」
このへんはちょっとわざとっぽかった。
未咲「していい? いいよね? だって、我慢できないんだもん……」
この感じはすごく未咲っぽい。
未咲「よーく見てて……これが、卒業寸前のわたしの、とっても情けない姿……んんんーっ!」
そう、ちょうど試験もひととおり終わり、この学校を去ろうとする時期だった。
それで本気を出してきたということ。だけど同時に、わたしの欲は失せていた。
未咲「玲香ちゃんが何も感じなくなっても……わたしはわたし、だから……」
そう言い放ち、せつなく放出した。
未咲「一生このまま、だから……たとえ玲香ちゃんが私の目の前からいなくなっても……っ」
しぶきが飛んでも、晴れやかな青春の終わりにふさわしい桜吹雪と同じにしか見えない。我ながら美化が過ぎるけど、もうそういうこと。
未咲「玲香ちゃん……どこにもいかないで……」
泣きそうになりながら、未咲が言う。
どだい無理なお話だ。わたしはわたしで、違う道を行く。
それをわかっているからこそ、あえて言っているんだろうけど。
玲香「どこにも行かないわよ」
そう口では言いつつ、すでに先を見据えている。
わたしは将来、さまざまな技能を身に着けていき、この狭い世界から旅立つ。
未咲「そっか……」
安心したのか、さっきより勢いが増したそれが一気に布一枚を浸していく。
おそらく未咲本人にもこのことばはまるで嘘だとわかっているかもしれない。
それでいい。未咲は未咲で、どこかの誰かとしあわせになってほしい。
玲香「さて、卒業式の練習するわよ」
未咲「そうだった」
ふと我に返り、しとどに濡れた下半身のまま卒業式で歌う歌の練習に戻る。
泣いた後だからか、うまく声が出ない。
玲香「ほら、声が出てないわよ」
未咲「わ、わかってるよっ」
恥ずかしくなりながら、最後までやり遂げた。
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