第4話 大軍で魔王軍を殲滅 そして新たな島
その日はオリヴィエル帝国史にも載せられることになる出来事が起きた。
魔王城……西風の魔王が占領していた古代の城は帝国のやや西、すでに魔王軍に蹂躙されて廃墟となったアルズール王国の王都の傍にあった。
西風の魔王は魔人、甲虫族、オーク、ゴブリンなどを従えて長年にわたり周囲を荒らしていた。オリヴィエル帝国も25個連隊5万もの兵力を国境に集中させて戦っていたが無尽蔵に湧いてくると思われるオークやゴブリンの攻撃に悩まされていた。
錆びた槍や斧を手に手に突撃してくる魔物たちは、時には周囲の地面から出現し、あるいは夜間に空中を飛行する甲虫類の背中に乗って現れた。
一方で魔法を帯びた武器や銃で戦う人間を殲滅もしきれずに膠着状態が続いていた。
そこに強力な援軍が現れた。
西風の魔王を封印しうる風の精霊の加護を受けた剣を手にした勇者とその仲間たち(古代王の墳墓で戦士、司祭が救出された)、そしてそれに続く8個連隊16000人の兵士。
その日は雨と泥濘に悩み、火縄銃の暴発が相次いで苦しんでいた帝国兵たちは茫然とその様を見ていた。
突如として青く輝く剣を掲げた勇者エオノラが戦場に現れると雨は止み魔物に向かって暴風が吹き始めた。そしてやけに装備が良く最新型の火打ち石式の銃を手にした銃兵を先頭にした兵士たち。
隊長のレオナルドと名乗った人物は帝国皇帝の共闘許可証を帝国軍の司令官に差し出すと颯爽と馬に乗って指揮を始めた。
膠着していた戦線の中、元気もよく装備も整った新手の兵士たちは効率よく銃撃で魔物を倒しはじめた。勇者が剣を掲げて前進すると暴風や霧が魔物の邪魔をする。
そうこうしているうちに帝国軍と対峙する魔王軍はさんざんな被害を受けて魔王軍四天王まで討ち取られてしまった。
あとは阿鼻叫喚だった。
普段は少数で切り込んでくるのが定石の「勇者」が大軍を従えてやってくるので太刀打ちはできなかった。
西風の魔王は勇者と何か交渉をしようとしたようだがその間に魔王の居室になだれ込んだ兵士たちの猛烈な銃撃で倒れ、勇者の剣で無事に封印された。
そしてそれらの戦費を支えたのは全て帝都に店を構えていた錬金術師フィリップだったのだった。
「いやぁ先生、それにしても凄いことになりましたね」
クルエラがケラケラ笑う。
錬金術師フィリップとなった新井は、何かの実験にいそしんでいるクルエラのほうにちらりと視線を向けた。
「魔王を倒しちゃいましたし、それから伯爵位を帝国からもらってついでにさらに大きな島の購入権をもらったんでしたよね?」
クルエラは高価な錬金術素材を怪しげな実験のためにどんどん大釜に放り込んでいる。
「そうだな」
新井はニヤリと笑った。
魔王を倒すのに貢献したフィリップは帝国から盛大な歓待を受けた。
帝国皇帝も喜んで伯爵位と外海にあるかなり大きな島の購入権をくれたのだった。
その島はレオナルドに下見にいかせたところかなり大きく、地球でいうところの九州くらいの大きさはありそうだった。今度は外海にあり、今は小さな漁村があるだけで、大きな湾は嵐を避けるために船が逃げ込んでくるとのことだった。
帝国の国境付近にあり、そのあたりを荒らす海の魔物の手勢がよく出没する海域でもあった。皇帝としては西風の魔王問題を解決した錬金術師フィリップとその勢力をけん制する目的と帝国を守らせる目的の両方を果たそうとしているのだろう、と新井は思った。
「しかし大きな島だ。開拓し甲斐がある。まずはこのアルヴェン島と外海を結ぶ河の拡張工事が終わったら船を仕立ててみんなで行ってみよう」
「楽しみですねぇ」
「そのたびには我々も同行してよろしいのでしょうな?」
勇者エオノラと魔法使いのアリッサ。
2人は西風の魔王を討伐した後、そのままアルヴェン島の食客になっていたのだった。
「もちろん。まずはろくに地図もない島の探検からだね……」
新井はその計画を楽しみにしていた。
毎日錬金していた結果、ひっそりと錬金術のマスターレベルは20まで上昇しており実は馬車程度の大きさのものなら黄金に変えることができるようになっていた。さらに黄金だけではなく別の金属に変えることが出来ることも分かってきた。
勇者エオノラが身に着けている不思議な青くきらめく金属の鎧。その素材にも変換できそうだった。
ただの営業マンとして疲弊した毎日を送っていた新井。
今や異世界の錬金術師となり、そしてさらにその能力は上昇しつつある。
「楽しみだな……色々と」
まだ見ぬ外海の巨大な島をどのように開拓していくか、新井はそのことに夢中になっていくのだった。
マスターレベルの錬金術師となった転移者のおっさんは島を買って魔王と戦う Edu @Edoo
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