第三話 ふるふると揺れる白い塊
夜はダキオさんとウワドゥさんに付いていって、近くの家にお世話になった。
ダキオさんとウワドゥさんは、その荷物から
ウワドゥさんからは、後でその分のお金を求められた。何もできないよりは、こうやって請求された方が安心できるので、俺は言われるままお金を数えて渡した。
夕飯は、スープをもらって食べた。
バニュというらしい。見た目は茶色いスープ。作られてから時間が経っているのか、温かくはなかった。木のスプーンで掬うと、スープに沈んでいた柔らかな白い塊がその上に乗っかって、スープがぽたぽたと落ちる。
スプーンの上でふるふると揺れる白い塊は、親指の先ほどの大きさで、大きな塊から適当にちぎったような、不揃いな形をしていた。
そのまま口に含んだら、甘かった。果物のジュースを煮詰めたみたいな味。
夕飯のスープだと思っていて、だから
白い塊は最初の印象の通りに柔らかかったけど、噛むともちもちとした弾力があった。粘り気があって──餅とか、団子とか、そんなものに近い気がした。
その餅のような白い塊は、クンタンと呼ばれていた。甘いスープが絡んで、口の中で噛んでいるうちに、とろりとしてきて美味しい。
シルは、最初に甘いジュースのようなスープだけをそっと口にした。顎を持ち上げてこくりと飲み込むと、何度か瞬きをする。瞬きの間に広がった瞳孔が、興味深そうに器の中を覗き込む。どうやら、気に入ったらしい。
勢いよくスプーンを入れると、中に入っていた白い塊をいくつかまとめて掬い上げた。そして、その全部を口に入れると、すぐに顎を上げて飲み込もうとする。
「シル、噛まないと詰まるよ」
慌てて声をかけると、シルはちょっと動きを止めて、それから顎をおろして俺の方を見た。何か言おうとしたみたいだったけど、口の中いっぱいにクンタンが入っているせいで、ただもぐもぐと口を動かしただけになった。
喉に詰まらせるようなことにならなくて良かったとほっと息を吐いて、俺はシルがクンタンを飲み込むのを待つ。
そのうち、ようやく飲み込んだらしいシルが、はぁっと大きく息を吐いた。
「貝のときみたいに噛まなくても飲み込めるかと思ったら、全然飲み込めなかった。びっくりした」
シルはそう言って、今度は甘いスープを掬ってこくりと飲んだ。
「気を付けてね。少しずつ食べるとか」
「そうする。ちょっと苦しかった。でも、甘くて美味しい」
シルは唇の端に溢れたスープを舌で舐めとると、楽しそうに目を細めた。全然めげている様子もなく、また一匙クンタンを掬う。今度は、一つだけ。その分量にほっとして、俺も自分のクンタンを掬って食べる。
弾力のある塊を口の中で転がしながら噛む。デザートのような甘いスープは夕飯として物足りない気もしていたけど、クンタンは飲み込むと結構お腹が膨れる感じがあって、食べ終わる頃には意外と満足できていた。
ばらばらと、激しい雨の音で目を覚ます。家の中は薄暗くて、時間がわからない。
ここまでの道のりで布団がわりにしていた大きな布は、シルと共用で使っていた。だから、同じ布にくるまったすぐ隣で、シルが眠っている。俺の腕にしがみつくように。
宿屋とか、ベッドがある部屋を使えるときは別々で眠るけど、今みたいに他の人もいる状況だと、シルは俺にくっついて眠りたがる。
知らない人に囲まれて眠るのは、俺だって不安だ。いろんな緊張でなかなか眠れない時もある。そんなときに、シルが俺の手を握ってきたり、そっと腕が絡んだりすると──正直、困ることもあるけど──少し安心できるのも本当のことだ。
すっかり目が覚めてしまったので、そっと起き上がって、ずれた布をシルに掛け直す。それから、寝る前に外した
もしかしたらまだ、だいぶ早い時間なのかもしれない。ダキオさんとウワドゥさんだけでなく、ほとんどの人がまだ眠っているみたいだった。一人だけ、起き上がっている人がいて──多分この家の人だ。
起きていたその人は、俺を見て、手元のものを軽い調子で投げてくれた。目の前に落ちてきて両手で受け止める。トホグ・アスだった。お礼を言おうと思って、でもウリングラスの言葉がわからなくて、口を開いたまま何も言えなくなってしまった。
代わりに渡せるものがない申し訳なさもあって、俺は曖昧に笑って頭を下げた。伝わったかはわからない。
シルが眠っている間に自分だけトホグ・アスを食べる気分にもなれず、それを握ったままシルを見下ろす。白い頬に伏せられた睫毛。ほつれて顔にかかる細い銀色の髪。
穏やかな寝顔にかかる銀色の髪の毛が、ふっくらとした唇に張り付いている。その髪の毛を静かに払ってやると、指先に柔らかな頬が触れて、なんだか悪いことをしている気持ちになってしまった。
布を引っ張り上げてシルの首元を覆う──その寝顔を隠すように。
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