35 終着点

 それから二日間、俺たちは、永遠に続くかと思われる激しい吹雪に閉じ込められ、動くこともできず、食べるものもなく、ただ、お互いの肌で熱を交換しあうことで命を繋いだ。


 もう駄目かもしれないな。ここが俺たちの旅の終点か。


 互いの意識も途切れがちになり、そう思った俺は、朦朧としつつ、スノウを抱きしめた。抱きしめられたかどうか、それすら不確かな意識のなかで。


 唐突に、白く凍りついた車の窓をノックされ、俺はうっすらと目を開ける。俺の肩にもたれかかっていたスノウも、身体を僅かに動かす。

 ガラス越しに俺の名を呼ぶ声が聞こえる。


「イヴァン・ドヴォルグか」


 見知らぬ男たちが俺たちの車を囲んでいた。どうやら、キースを追ってきた、政府の手先のようだ。


 これまでだな。

 もはや、抵抗のしようがない。俺は、覚悟を決めて、答えた。


「そうだ」

「それは幸いだ。ちょっと後ろに下がっていろ、ドヴォルグ」


 男たちは安堵したように頷くと、車の窓ガラスをバールらしき器具で殴りつけた。窓ガラスが派手な音を立て、砕け散る。同時に外の冷気が俺たちに襲いかかり、俺はスノウを思わず抱き寄せた。

 スノウはぼんやりとした意識の最中から、何事かと瞳を微かに開いて、ことの成り行きを見ている。

 そんな俺たちに、男たちは毛布を投げて寄こす。そしてリーダーらしきひときわ背の高い男が、こう続けた。


「君たちの格好は、目に毒だな。まずはこれに包まれ、ふたりとも」


 そのとき、俺たちは改めて、半裸に近い格好で、コート一枚肌に掛けたのみで身を寄せ合っていたことに気付き、慌てて毛布を受け取り、身体に巻く。

 それを確かめると、背の高い男は、俺たちに湯気が立ち上る紙コップをふたつ差し出した。


「温かいココアだ。とりあえず、これで身体を温めろ」


 彼は、突然のことに戸惑いを隠せない俺に、その身分を、ゆっくりと名乗った。


「私は、国際軍事法廷の高等検察官だ。イヴァン・ドヴォルグ、君をずっと探していた。学童疎開船撃墜事件の唯一の証人たる、君をな。君の身柄を、我々は責任持って保護する」

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