34 それから

「ねぇ、後悔はない?」


 俺のコートに包まれたスノウが尋ねる。


「何がだ」

「私を、抱いたこと」

「ない。ずっとこうしたかった」


 私は静かに笑った。


「嘘。それは私の台詞よ」

「知っていたよ。長く待たせて、すまなかった」

「そうね、焦らされたわ」


 俺はスノウの頭を撫でながら謝った。


「すまん」


 私は頭をイヴァンに預けたまま、また問いかける。


「ねぇ、聞いていい?」

「なんだ?」

「私を抱いたのは、奥さんが亡くなったから?」


 俺は即座に答えた。


「違う」

「じゃあ、なぜ?」

「大好きだからだ」


 彼のストレートな言葉に、私も、率直に答える。


「私もよ」


 俺は、迷わずスノウを抱き寄せた。

 そして、あることを思い出して、コートのポケットを探る。


「ほら、君の指輪だ、やっと返せる」

「あっ! あなたの瞳の、あの指輪、どうしてここに?」

「秘密だ」


 私は彼の顔をのぞき込んでから、頬を膨らませ寝返りを打った。


「ずるい」


 しばしの沈黙の後、俺はスノウに切り出した。


「……スノウ。お願いがある」

「なぁに、イヴァン」


 私は、また身体の向きを変え、イヴァンの顔を見上げる。


「その指輪、また、左手の薬指にはめてくれるか? アクアマリンみたいに立派じゃない代物だが」


 一瞬、彼女の呼吸が乱れる。そしてスノウは心から幸福そうに答えた。


「もちろんよ」

「今度はもっと長く、俺が死ぬまで着けていてくれ」


 遠回しすぎるイヴァンのプロポーズに、私は吹きだす。


「じゃあ、あなたも長生きしてね。約束よ、イヴァン」


 俺はゆっくりと頷いて言った。そして彼女をもう一度抱き寄せる。


「ああ、スノウ、君も。俺の大切な人」


 外の吹雪は激しさを増すばかりだ。

 交わし合う互いの身体の熱も、時を追うごとに、冷たくなっていく。

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