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 何回、告白しようとしただろうか。

 幾度、繰り返しただろうか。


 ――いや、回数なんかは関係ない。

 迎える結果はただひとつ。


 何度やっても、時間は巻き戻り――私は5分前の世界へ戻ってきてしまっていた。


 もちろん、ただ回数を重ねていたわけじゃない。なんとかして先輩に気持ちを伝える方法はないか。5分という限られた時間の中でできることはないか。私はあらゆる手段を講じた。


 11時に巻き戻りが発生してしまうのなら、その前に電話やメッセージアプリを使って先輩に気持ちを伝える。


 でもダメだった。

 電話はつながらず、やっとつながったと思ったら11時が訪れて。

 メッセージも、巻き戻りの直前にしか「既読」にならなくて。


 そうして。


「すみません、わざわざ来てもらって」

「いいっていいって。にしても、こんなところに呼び出されると、なんだか緊張しちゃうなー」


 青い空を背に、先輩は「にへ」と笑ってちょっと変な顔になる。たまに見せるその表情で、私はたまらなく胸が苦しくなる。


「……先輩っ!」

「うん?」

「私っ、先輩のことが――


 ……好き、なんです」


 17回目の告白。予想できてしまっているせいでもはや消え入りそうな語尾とともに。

 私はまた、元の場所へと戻っていた。


[10:56]


 際限なく巻き戻りは起こるのに、時間の進みはこれっぽっちも変わらない。


「……行かなくちゃ」


 一切の逡巡しゅんじゅんなく、足は屋上へと進む。まるでそうプログラムされた機械のようだった。


 けれど、私にはこうするほかない。

 この17回の間に考えないわけじゃなかった。もし私が先輩に告白することなく11時を迎えたら、未来が変わって、このタイムリープから抜け出せるんじゃないか。

 でも、それだけはできない。試せない。

 だって。


 告白しなかったら……先輩は、遠くに行ってしまうから。

 私の――望月もちづき春香はるかという女の手が、絶対に届かないところに。


 だから、私は絶対に先輩に告白しないといけない。前に進むためにも。今日この時に。

 なのに。


「あ……」


 気がつけば、私は廊下の同じ場所に立っていた。いつの間にか屋上にたどり着き、いつの間にか先輩に告白しようとして――また戻ってきたのだ。


 行かな、きゃ……。


 また、屋上に向かう。そして告白。それを繰り返す。


 繰り返して。繰り返して。繰り返して繰り返して繰り返して。

 何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 でも――


「私、先輩がずっと――


 ぶつり、と。

 私の言葉は、引きちぎられるように途切れて。先輩には届かない。

 何度繰り返しても同じ。10時55分から11時までのわずかな時間を足掻あがいて、もがいても、胸がつぶれそうになるほど想いを伝えようとしても。

 私は、その5分前に戻ってしまう。


 そうして訪れた何度目かの10時55分。

 私は同じように屋上へ――向かわなかった。


 向かった先は、屋上とは正反対。校舎を出てすぐ、部室棟の裏手にある大きな桜の木。

 私の身体より何倍も太いずっしりとした幹に背中を預けて、そして座り込む。途端に私は動けなくなった。身体が硬い岩の塊になったみたいに。


 ……もう、


 もう、いいや……。


 きっと先輩は私を待って、そのうち屋上を去るだろう。そんな先輩を、笹山が見つける。

 そして……想いを伝えるのだ。


 はじめからわかっていたじゃないか。こんなタイムリープにならずとも。

 私の気持ちが、届くことなんてない。

 私には越えられない壁がある。


 殻に閉じこもるように、うずくまる。ほのかな桜の香りが、私を撫でる。


 でもせめて、伝えたかったな――


「はーるかっ」


 瞬間、桜の香りはかき消えて、

 いちばん好きな声が、頭の上から降ってきた。

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