火間虫入道

安良巻祐介

 金更紗の踏頭とうとう屋が出ていると言うから、狭く居心地のいいバラックから久しぶりに這い出してわざわざこんな赤い日の燦々当たる通りまで出てきたのに、どこにも看板が出ていなかった。それどころか、火間虫に×印の旗を掲げた黒子の群れが、どこの暗所からか湧いてきて、寝扱き腹掻き棒で手当たり次第に往来の者をとらまえ始めた。しまった、全て罠だったのだ。迂闊だった。ごくたまに行われる清討祭に当たってしまった。死に物狂いで駆け出して、髪の毛の半分と背中の皮の幾らかを持って行かれながらもなんとか逃げおおせ、逃げ込んだ片隅で、残り少ない命の熾火を丸めた手中で暖めながら、夢のように美しい白河へ最後の夜船が出ていく幻覚を見た。

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火間虫入道 安良巻祐介 @aramaki88

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