「おらっ」


 また、しけた顔してとぼとぼ歩いていたので。とりあえず、蹴飛ばした。


「いたい。おしり蹴らないでよ」


「そんなへこんだ顔してたら、バッドエンドのほうから寄ってくるだろうが」


 いつも、そうだった。


 彼女は。


 バッドエンドに、突っ込んでいく。


 普通の人間なら、見ても見ぬふりするような、かなしかったり、つらかったりするところにまで。洗練された頭と強靭な身体を使って、その悲劇を変えようとする。


 そういう彼女の姿が。生き方が。好きだった。


 彼女に寄り添って。


 唯一のハッピーエンドに、なってあげたいと。心から思う。


「俺が隣にいるだろ。少しは笑えって」


「はは」


 彼女。ふぬけた笑顔。


 本当は、泣きたがっているのに。それを隠して、ぼろぼろの心で。今日も、街を歩いている。


 だから。


 自分が、かわりに笑ってやる。


 彼女がへこんでいたら、蹴り飛ばしてやる。


「おまえがどんなにバッドエンドだろうと。俺には関係ないね」


 言ってはいないけど。自分が近くにいることで、なんとか彼女が大きな事故や風邪をひくことは、なくなってきた。あと少し。


 ハッピーエンドに、たどりつかせてあげたい。なんとかして。


 彼女と一緒に。


 夜の街を歩く。


 いつものバッドエンドに、逆らうために。


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いつものバッドエンド (15) 春嵐 @aiot3110

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