第四話 林蔵(りんぞう)
夜の
左手に木の碗を持ち、竹串に刺した肉をくわえた小柄な若者が、
「おっ、誰が作ったんだこれ。塩をふって炭火で焼いたのか。うん、なかなかうまい」
「ところで、これ一体何の肉だ。まさか猿じゃないだろうな」
「さあ、おれにはわかりません。
軽口をたたきながら、もぐもぐと堅い肉を噛みしめる。
竜は新しい暮らしにすぐに馴染んだ。山麓にある
竜は勘解由の子息で、通称、
「明日は朝から助六郎様のお供で城の見廻りをする。竜、ちょうどいい機会だ。おれから助六郎様にお願いするから、お前もついて来いよ。山城を歩くのは初めてだろう」
「へえ、そりゃありがたいです。ここへ来てひと月近くなるけど、まだ城のことは、何も知りません」
椀に山盛によそった赤米を
竜は大勢の雑兵たちと、
勘解由橋のそばの練兵場では毎日、合戦に備えて調練をした。体格の良さと腕っぷしの強さで一目をおかれるている。地侍の家に生まれたせいだろうか。おれには武芸の才覚があるのかもしれないと思う。
「助六郎様は素晴らしいお方だぞ。誠実で気さくで威張ったところがまるでない。偉大なお父上の血をひいているから、必ず強い武将になる。
浅黒い頬を紅潮させ目を輝かせながら言う。
中山勘解由は北条氏照の下で、あまたの戦の武功をあげていた。誰もが知る勇猛果敢な武将。白髪交じりの長い髭。顔にはその戦歴を物語るような無数の傷がある。いかにも古武士然とした風貌だが、練兵場で見かけた二十歳になる息子の助六郎は、まだ
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