空色。

蒼井祐

第1話

「空が狭いね」

 と、彼女は言った。

 田舎育ちの彼女にとっては、ここの空は狭すぎるのだろう。

 病室の窓からは、秋口の夕方の光が差し込んでいるが、床に映るその光は格子状だった。僕は彼女にどんな言葉をかければいいのか、しばらく考えたが何も浮かばなかったので、

「うん、そうだね」

 と言おうとした。

咳き込むように絞り出した僕のその声は彼女にとどいたのだろうか。

 彼女は妙に低いベッドの上で、横たわり、秋口には少し薄いんじゃないかと心配する位の薄い毛布をかけてじっと窓の方を見つめていた。まるで何か大事なものを見つけたように。

 彼女のその細い腕には点滴の針が差し込まれていた。点滴のチューブは彼女にぴたりぴたりと同じリズムで何かの薬を投与しているようだったが、それが彼女にとってどのような意味があるのだろうか。僕は、ポケットから煙草を取り出してゆっくりと口にくわえ火をつけようとしたが、彼女に、

「ここは病院よ」

 と言われるまで気がつかなかった。

「ああ、そうだね」

 と言い、口にくわえていた煙草を箱に戻そうとしたとき、自分の手が小刻みに震えていることに気がついた。彼女は気がついただろうか?僕のその手の震えに。

 

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空色。 蒼井祐 @nekousi

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