第25話 201回目、幸福な結末

宰相令嬢ヴァレンティナ・グレンテスは、緊張していた。


 今日は、ティナことヴァレンティナの18歳の誕生日だ。

例年、国家宰相カリスト・グレンテス伯の一人娘であるティナの誕生日には、父所有の絢爛な館にて大がかりな誕生パーティーが催される。だが、今年は特別な年だった。

 ティナとテミストが王太子レオンシオのクーデターを鎮圧し、国外追放した後、王弟であるエドガルドが国王に即位した。父宰相も、近衛師団も、宰相に連座して投獄されていた面々も、みな解放された。神殿勢力は政治から遠ざけられ、王宮は新体制で動きつつある。

 そんな中迎える18歳の誕生日。王宮の大広間へ続く控えの間で、ティナは一人そわそわしていた。今日は、深紅のドレスはやめた。いつものループとは違うのだから。


 コンコン、とノックがあってから、控えの間の扉が開く。

 入ってきたのは、エドガルドだった。


「では、行こうか。」

「はい。」


 侍女が大広間へと続く重厚な扉を開き、押さえてくれた。エドガルドはティナの腕をとり、恭しくエスコートする。

 まばゆいシャンデリアの輝きがティナの目を射た。目を細めて見ると、すでに王国の有力貴族たちが居並び、立食パーティーが始まっている。


(この大広間に、誰かにエスコートされて入るのは、初めてかもしれない…)


 200年近くやっていて、こんな当たり前のことが初めてなんて。ティナは苦笑した。


 2人は大広間の奥の、一段上がったところに立って、貴族たちの方を向いた。

 


「今ここに、国王エドガルドの名において、ヴァレンティナ・グレンテスとの婚約を宣言する!」


 2人が壇上で口づけると、わあっ、と、祝福の歓声が上がった。


 201回目にして迎えた、この上ない|幸福な結末ハッピーエンド。その瞬間、ティナはまばゆい光に包まれた。


(え?)


幸福な結末ハッピーエンド、おめでとう!」


 ティナは光の中で、懐かしい声を聞いた。ティナをこの異世界に送った「神様」だった。


「それにしても、すごい戦いっぷりだったね!まさか200回も繰り返すと思わなかったよ」

「笑いごとじゃないですよ!すごく大変だったんだから…」


 くつくつと笑う神様に、ティナはむくれた。


「じゃあ約束通り、元の世界に戻してあげるよ。どうする?」

「それは…」


 ティナは、ほとんど迷わなかった。


「わたし、元の世界には、戻りません。この世界で、生きていきます。」

「そう?元の世界に戻りたくて、200回もがんばったんじゃないの?」

「最初はそうだったけど、でも…」


 自分の力で、運命を変え、勝ち得た居場所だから。せっかく出会えた、愛する人だから。だから、ここで生きていきたい。ティナは心から、そう思った。


「おめでとう、ヴァレンティナ・グレンテス。これが貴女の幸福な結末ではなく、幸福な物語の始まりにならんことを―…」


 祝福の鐘が鳴る。ティナははっと我に返った。隣には、微笑を浮かべるエドガルド。


「どうしたんだ、ぼうっとして。」

「いえ、何でもありません…」


 ティナはゆっくりとかぶりを振った。確かに、これは幸福な結末ではない。幸福な物語の始まりだ。ティナはそう確信して、愛する人の手をとった。

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転生悪役令嬢は200回目のループで近衛師団長に恋をする 矢作九月 @yahagi_kugatsu

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