第24話 決着


 打ち合うティナの唯一の誤算は、レオンシオが前より強くなっていたことだった。


(…というか、レオンシオ、こんなに強かったっけ?)


 ティナの戸惑いを見透かすように、レオンシオが踏み込みながら呟く。


「…この生を繰り返しているのが、自分だけだと思うなよ。」

 レオンシオの囁きに、背筋が凍る。とっさに、間合いを広げた。


「じゃあ、レオンシオ、貴方も…」

「これが俺が弾き出した、最高の終結だ…!宰相も、エドガルドも、国王も、そしてお前も…生かしておけば、なにかとうるさく国政に口出しをしてくるからな。ここで殺しておかねば、『真の王』にはなれないんだ。」

「だからといって、神殿勢力と手を組んでは…結局、口出ししてくる相手が変わるだけだろう。」

「うるさい!俺は今度こそ『真の王』になって…この呪いを終わらせる!」


 2人の剣が、激しくぶつかり合う。

 ティナは少し離れて、ふっ、と息を切った。

 感情を披きすぎている、と自覚した。

 披き、そして鎖す…、相手の上体、馬の動き、そして刃先を、心を空っぽにして見つめながら、ティナは心を整えた。

 披き、そして鎖し…繰り返す間に、集中が研ぎ澄まされ、視野が広がっていく。周囲で固唾をのんで見つめる1万の軍勢、処刑台のエドガルドと父の表情までが見て取れる。空気の振動が肌を突き、鼓膜を震わす。上空を舞う鷹の羽音まで煩く聞こえるほどだ。

 そして、相手の突き出す刃の軌跡が光って見え、身体が勝手に反応する、あの感覚。


「…レオンシオ、お前、何年修行した?」

「30年だ。お前がエドガルドにうつつを抜かしている間にな!」


 ティナはふっ、と笑った。


「お前がエミリアにうつつを抜かしている間に、わたしが何年修行をしたか教えようか。」


 きぃん、と鋭い金属音。ティナのレイピアがレオンシオの剣に絡みつき、鍔から弾き飛ばした瞬間だった。


「…90年だ。まだまだ修行が足りんようだな、レオンシオ。」


 ティナのレイピアが、まっすぐにレオンシオの喉元を捉える。

 勝敗は決した。ティナの背後の辺境軍が、歓声に大きく湧いた。


「く、殺せ…どうせまたやり直すだけだ。」

「…」


 追い詰められたレオンシオが、諦めたように呟いた。


「レオンシオ、お前を殺すつもりはないよ。」


 レオンシオが完全に殺意を失ったのを見極めて、ティナは剣を鞘に納めた。

 それを見て、真っ先にレオンシオに駆け寄ったのは、白銀の聖女エミリアだった。


「レオンシオ様、おけがは…?」

「エミリア…」

「お前を王都から永久に追放する。お前にはまだ、お前を愛してくれる者がいるだろう。今の彼女エミリアを大切にして、別のどこかで、『真の王』とやらを目指せばいい。」

「レオンシオ様、神は迷える子羊に、きっと道を示してくださいます…エミリアが生涯お供致します。」


 こうして王都を追放された悪役王太子が、本当の愛を見つけ、『真の王』となるのは、また別の話である。

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