昔知り合ったガキ大将達が全員俺の理想通りの美少女になっていた
つくも/九十九弐式
俺はよくいるオタク趣味の普通の高校生だ
それは俺――花江光輝(はなえこうき)が幼少期の頃の話だった。6歳の頃。俺は三人の男の子達と知り合い、様々な体験をした。
それから俺は両親の仕事の都合で引っ越しをする事になった。通っていた小学校も転校する事になった。それから俺達は二度と会う事はないだろう。そう思っていた。
だが、それから10年後、俺はかつて住んでいた場所にこれまた両親の仕事の都合で戻ってくる事になったのである。
通うようになった高校は私立鳳明(ほうめい)高校。どこにでもあるただの普通科の高校だった。こうして俺は一年生の頃から元住んでいたこの場所で、ただの普通の高校生となったのである。
「くっううううううううううううううううう!」
俺は奇声とも取れるうなり声をした。俺は目の前のモニター画面でアニメを見ていたのである。見ていたアニメはSRO(ソード・レボーリューション・オンライン)という、仮想ゲームが舞台の大人気ライトノベルが原作の作品だった。シリーズ累計1000万部を突破している大人気作品だった。
「……はぁはぁ。やっぱり、アスカちゃんだよな。アスカちゃん」
俺は俗に言うオタクだった。アニメも勿論するし、ゲームもする。SGOというソシャゲに高校生の身分でありながら、数万円の課金をする廃課金勢だ。月数万の課金では廃課金とはいえないという社会人からの痛い突っ込みがありそうだ。だが高校生からすれば十分に大金なのだ。そしてラノベも好きで良く読むし、声優も好きだ。
特に今見ているSROのヒロイン、アスカちゃん役を演じている紅月蒼依(こうずきあおい)という声優にガチ恋をしている、所謂、ガチ恋勢という一般的に言ってやばい奴と言える程の重度のオタクだった。
紅月蒼依(こうづきあおい)。若干13歳にして声優デビューし、瞬く間に売れっ子のアイドル声優となった現役の女子高生だった。そこら辺のアイドルにも引けを取らないルックスと透き通るような愛らしい声質も合わさり、一躍人気声優となったのである。
俺はヒロインを演じる彼女を、アニメのヒロインであるアスカちゃんと同一視して、恋をしていたのである。
俺は様々な妄想をしていた。アスカちゃんはアニメのヒロインだ。だから現実には存在しない。痛いオタクの俺ですら、流石にそれ位の分別はついた。
だが、その声優である紅月蒼依(こうづきあおい)は実在している女性である。だから俺はSROのアスカちゃんのコスプレをしている紅月蒼依を妄想していた。
その妄想では、アスカちゃんの現実世界(リアルワールド)バージョンの学生服の紅月蒼依を妄想していた。
「イリト(そのSROでの主人公の名前だ。実際の本名ではないが、あだ名みたいなものである)君。一緒に学校いこ」
妄想の世界では俺はイリト(主人公)になりきっていた。
「もう。イリト君ったら、だ、だめだよっ。私達、まだ学生なんだから」
シチュエーションは登校の時だった。俺達は恋人同士である。俺はこの部屋まで起こしにきたアスカ(紅月蒼依)をベッドに押し倒す。アスカ(紅月蒼依)はだめとは言葉では言っているが、雰囲気は完全にOKの雰囲気を醸し出していた。
「……あっ、もう。イリト君ったら、だ、だめっ」
イリトになった俺はアスカ(紅月蒼依)の首筋に唇を当てた。
だが、これは当然のように俺の妄想だった。俺は空しくなる。紅月蒼依は実在する女性である。しかし、彼女のような人気アイドル声優には多くのファンがいた。俺はその一ファンでしかない。その存在の遠さは、画面の中にいるアスカと限りなく等しい。
画面の中の彼女と同じで、近くて遠い存在だった。
「はぁ……しんどい」
手が届きそうで絶対に届かない存在。どれだけ想っても届かない。無論彼女(紅月蒼依)はアニメのキャラではないから、ライブなどのイベントに参加すれば会えるかもしれない。だがそれは大勢のファンのうちの一人だ。米粒のような小さな姿にしか見えない。
俺の事を彼女は認識すらしないだろう。悲しいけどそれが現実だった。
俺は登校する。これがライトノベルだったら俺には妹がいる事だろう。可愛らしい義妹が。だが現実には俺は一人っ子だ。少子化の最近において一人っ子は珍しくもない。妹物でなくても、幼馴染みくらいいるはずだった。これがラノベだったらそうだ。しかし、高校一年生の時に引っ越してきた俺に幼馴染みなどいるはずもない。ラノベだったら可愛い幼馴染み(女)が起こしにきたかもしれないが、朝起こしに来たのは普通に母親だった。悲しいけどこれが現実だった。
せめて、男友達でもいればと思った。思い返すのは10年前の事だった。俺はその時3人の男の子に出会い、友達になった。10年前の事ではあるが、鮮烈に覚えている。今でも鮮明に思い出す事ができた。
「……今、どこで何をしているのかな」
俺は独り言を呟く。せめてそういう、例え男だとしても幼馴染みがいればこの高校生活も少しは楽しいのではないか、そう思わざるを得なかった。
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