転校生はアスカちゃん!?

学校に着いた俺は仕方なく教室に入る。一年Aクラスに入った。あー。だるいな、と俺は思っていた。

 暇潰しに俺はスマホでアスカちゃん(紅月蒼依)のスレッドがたつ6ちゃんねる(おなじみの巨大匿名ネット掲示板の事である)の掲示板にアクセスしていた。

 多くの書き込みがあった。中には熱狂的な書き込みが見られる。「蒼依は俺の嫁だ」とか「蒼依なら俺の横で寝てるよ」だの、くだらない書き込み。紅月蒼依が処女か非処女かだのという、意味の無い討論。さらにはどれだけライブの抽選に申し込む為にアニメの円盤を買い込んだかという自慢話。もっと過激なのだと犯罪予告みたいな事を書き込む奴もいた。

 やべー奴だ、と俺は思った。最近そういうのは捕まる事も多いというのに。実際犯罪行為を行う声優ファンは多い。ストーキングだったり、殺害予告だったりだ。そういった書き込みから直接的凶行に出る奴も出てきているので、警察も注目しているのだ。


 キンコンカンコーン。


 そんな事をして暇を潰しているうちに、朝のHRの時間が来た。そのうちに先生が入ってくる。20代後半といったところの女教師だ。温和な表情の女性。しかも美人である。多少無理めかもしれないが、この学校の制服を着ても差ほど違和感がないかもしれない。

 名を西条可憐(さいじょうかれん)先生という。

 日直が「きりーつ、れい」というと、皆起立して一礼する。おなじみの作法だった。

 これが始まるとあーたると思いつつも気持ちは授業を受ける事に強制的に切り替わるのであった。「ちゃくせき」という声の元に着席する。


「今日は連絡事項がありますが、ひとつ重大な事があります」


 重大な事? なんだ?


「今日、このクラスに転校生が来ます」


 ざわ、ざわ、ざわ。

 クラスがざわつく事を感じた。問題なのはまず、男か、女かだ。男だったら余程のイケメンでも男子はヒートダウンする。いや、イケメンだったら尚更テンション下がる。クラスの序列が一個格下げされる事になるし。女子には嬉しいかもしれないが。

 当然女だったらヒートアップする。そしてさらに重要なのは、美少女か、それ以外か。美少女だったらさらに男子のテンションはヒートアップし、マックステンションとなりうるだろう。


「あなた達の考えている事はわかる。けど安心していいわ。転校生は可愛い女の子よ」

「マジか!?」

「これは超絶期待」


 男子のテンションが可愛い女の子と聞いて露骨にあがった。俺もオタクだが、別に可愛い女の子は嫌いではない。というか好きである。紅月蒼依だって生身の女性である。彼女は俺の中でアスカちゃん=アニメのヒロインであるが、それと同時に生身の女性であるという事も認識していた。


「それでは転校生の入場よ。入ってきて」


 転校生が教室に入ってくる。その時、俺の世界が止まったように感じた。流れるような美しい髪。整った可愛らしい顔立ち。整った身体のプロポーション。まるでアイドルのようだった。気品のある雰囲気。何度も妄想し、時にはズリネタにした事もあった。その人物はまるで妄想の中のアスカちゃんそのものだった。違いは着ている制服がSRO内の制服ではなく、この鳳明高校の制服である、という事くらいである。

 俺は思わず、立ち上がる。そして、口をパクパクと餌を貰う時の鯉のようにする。


「ア、アスカちゃん」

 

 クラスがざわついた。俺以外にも、このクラスにはオタクが複数人いた。俺ほどの重度のオタクでもない、俄オタクでも、彼女は有名人なので気づいた人も多い事だろう。


「紅月蒼依(こうづきあおい)だ。ほら、声優の」と、男子生徒。

「う、嘘。あ、あたし。アニメ見ていたんだよね、SRO」と、女子生徒。最近ではオタク女子は珍しくも何ともなかった。一見男子向けと見られるSROなどのアニメではあるが、普通に鑑賞している女子も大勢いた。

 クラスがざわついている中、黒板に名前が書かれる。

『紅月蒼依』と。


「紅月蒼依です。皆さん、本日よりよろしくお願いします」


 紅月蒼依は俺が妄想していた通りの笑顔を浮かべ、そう挨拶をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る