エピローグ:長い永い夏休み

 道路に出ると、そこはひどいありさまだった。

 何台もの車が横転していて、あちこちから煙が上がっている。

「あのゾンビたち、こっからひみつきちの方に行ったんだろうなぁ」

 アキトは振り返り、雑木林の方へと目を向けた。

 おれも見たが、いまのところは追いついてきている気配はなかった。

 むしろ、まわりの車を無視すれば、窓越しに聞こえてくるのはいつもの夏の音。

  ミィィィィィン ミィィィィィン……

 セミの鳴き声があたりを支配していた。

 目をつぶればまさに夏といった感じ。目をつぶればだけど。

「このまま、街と反対の方に行こう。隣町に」

 スグルがハンドルを握ったまま言った。

 もちろん賛成だ。でも……

「そのあとはどうする? もし隣町も……」

 ダメだったら。そう言おうとしたけど、口には出せなかった。

 口に出すと、本当になってしまいそうで怖い。すると、

「そういやさ」

 森の方を監視していたアキトが口を開いた。

「スグル、受かった学校によっては寮かもって言ってたじゃん。どこ?」

「え? なんでとつぜん……」

「いいからさ」

「え~っと……一番の候補は鹿児島かな」

 遠っ!

 だが、アキトの考えは違ったみたいだ。

「それじゃさ、隣町と言わず、そこ目指すぞ」

 そして、ビシッと道路の先を指差した。

「今までの夏休みで、一番遠いとこまで行こうぜ、三人でさ!」

 アキトを挟んで、おれとスグルは顔を見合わせた。

 そして……どちらともなくおれたちは笑い出した。アキトも笑い出す。

 ガソリンとか食料とかどうすんだよ、とか色々あるけど、まぁあとでいっか。

 夏休みは始まったばかりだ。

 窓を閉じてても聞こえる、うるさいぐらいのセミの大合唱。

 その声が別の合唱にかき消される前に出発しよう。

 だんだんと夕焼け色に染まってきた、快晴の空の下。

 スグルがアクセルを踏み、再びおれたちを乗せたトラックは走り出した。

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ひみつきち・オブ・ザ・デッド おかざき @okazaki_takeru

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