あのゼリー

 寒天でできた四角いゼリーを初めて買った。御多分に洩れず私のおばあちゃんの家にもいつもあれがあった。


 子供の頃の私はあれがあんまり好きじゃなかった。表面がざりざりしていて、じゃりっとした歯ざわりで、味もなんか微妙な感じだ。


 おばあちゃんはいつも私にあれを勧めてきた。おばあちゃんの家に行く度にいつも「食べな」と言って。温厚な笑顔で優しい声で、きっとよかれと思ってのことだろう。


 おばあちゃんはよかれと思って勧めてくれている。その善意を子供の頃の私はよく察し、無下にはできなかった。だからあんまり好きじゃないけど、もそもそと食べた。あくまで『あんまり好きじゃない』だけで『嫌い』ではなかったというのもあって、1つと言わず2つ3つと食べた。そんな私の様子を見て『このお菓子を気に入っている』と勘違いしてだろう。おばあちゃんはいつも『四角いゼリー』を用意してくれた。まあ、よくある行き違いだ。


 あれから何年経っただろう。進学を期に引っ越して以来ろくに実家に帰っていない。おばあちゃんの家を訪ねる機会も、自然となくなった。


 別におばあちゃんのことが嫌いになったとか家族との折り合いが悪くなったとかいうのではない。ただただ単純に帰省が面倒だから盆も正月も下宿先で過ごすようになってしまっただけだ。だからおばあちゃんの家を訪れる機会がなくなったのは、単なる私の出不精の結果でしかない。最後におばあちゃんに会ったのはいつだっただろう。


 なんとはなしにそんなことを思いながら過ごしていた折、買い出し先のスーパーであの『四角いゼリー』を見かけたのだった。単なる出不精をこじらせたせいでおばあちゃんに会いに行けていない罪悪感からか、あるいは郷愁に惹かれてか、普段は買うことのない、あんまり好きじゃないはずのそれを買ってみた。


 久しぶりに食べる『四角いゼリー』は相変わらず表面がざりざりしていて、じゃりっとした歯ざわりで、微妙な感じの味だった。だけどその味はどこか懐かしくて、なぜか子供の頃よりもおいしく感じられて、少しだけ暖かい気持ちになった。


 ……ってなることを期待して買ったんだけど……いやー……普通にさほどおいしくはないなこれ……やっぱりあんまり好きじゃない……どうしようこれ……まだあと8個くらい残ってるんだけど……まあ……捨てるのもなんだし我慢して食べるか……あとまぁ……たまには帰省しよう……おばあちゃんの家にも行こうかな……その時もし『四角いゼリー』を勧めてきたら『お礼だけ言って手をつけない』で乗り切ろうかな……うん……それでも勧めてきたら……まあ……食べる……か……うん……そうしよう……


【哀愁】


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