金華猫の誘い その四
一九一九年一月 下宿玄関前
◇
今日九頭竜会での予定が無い宮森は、まだ見ぬ
宮森が玄関を出ると、例の白猫が居た。
『おいミヤモリ、またあの白猫君がいるぞ。
ここんとこずっとだな。
お前さん、もしかして動物に好かれるタチ?』
『特に好かれる
でもこの白猫、自分を待ってくれてたように感じる』
ソロソロと歩き出す白猫に釣られ、宮森は後を追った。
『気の
肝心のムカシ煙草も中々見付かんねーしよ。
今日は、白猫君に行き先を決めて貰おうぜ』
宮森は了承し、白猫に行き先を託す。
白猫の歩くままに任せると、程なくして一行は朝草まで辿り着いた。
まだ正月の賑わいを見せている露店に、明日二郎は興奮を隠し切れない。
白猫はそんな明日二郎を余所に淡々と歩みを進め、ある神社に行き着く。
『
『酉の市とな⁉
なんともウマそうな響きがするではないかミヤモリ君!
で、酉の市の名物は何だ?』
『〖
自分は大学の時に昇殿参拝した事が有るから、良かったら記憶領域を覗いてみるか?』
『熊手は
中々ウマそうな響きがするではないか。
じゃ、お言葉に甘えてミヤモリ君の記憶領域、閲覧させて頂きまーす♪』
明日二郎は周囲の人間の記憶を読み取る事が出来るが、『
今回は宮森の許可が出た為、遠慮なく記憶の
『なでおかめ、なでおかめっと……。
デカッ、なでおかめデカッ。
それに食いもんじゃねーし。
熊手の方はっと、コレが……熊手?
宝船に七福神。
おかめに注連縄招き猫。
大きいやつも小さいやつも。
飾り多すぎデコりすぎ♪
まさか、熊手本来の機能を装飾で封じてしまうとは……。
それよりもミヤモリ、食いもんの記憶も観しちくりー』
『名物は
見付けられるか?』
『お、あったあった、この細長いヤツだな。
う~ん、この場で味わえないのが惜しい。
ミヤモリ、これ食いたいから、後で菓子屋に寄ってくれ、な!』
『分かったよ、土産に買って帰ろう。
でも、先ずはここらの煙草屋から当たるぞ』
宮森の考えを知ってか知らずか、白猫も再び歩き出した。
白猫に連れられ露店の招き猫にも見守られ、一行は行く先々の煙草屋で昔の銘柄を探し続ける。
「本当ですか!
よ、良かった~、探してたんですよ倉井 商会のやつ。
然も二種類も残ってたなんて……。
構いません。
ええ、在るだけ下さい」
どうやら、目的の物が手に入ったようだ。
煙草の箱には、アルファベットで〘
当時としてはハイカラな
『良かったな~ミヤモリ。
これでミッションコンプリートだ。
今日の功労者である白猫君にも、ちゃんと礼をしなければならんぞ』
『そうだな。
◇
こうして、倉井 商会の煙草も見付かり宮森の任務も無事終了した。
白猫には鰤の切り身を進呈し、宮森と明日二郎は夕食後に
当然、宮森の脳内では明日二郎が
『
なのに、
時折り響く山椒のピリリとした刺激は、程良いアクセントとなって甘さを引き立てる。
白、紅、白、紅……どちらがホントの君なんだい。
どちらもホントの君なのか。
オイラを惑わす紅白の、肌の
『遂に詩まで飛び出したか。
末期かな、こりゃ』
明日二郎の
白猫の食べがらを片付ける為だ。
幸い白猫は
宮森がそれを片付けている最中、明日二郎が話し掛けて来た。
『あの白猫君、また屋根上に登ってんぞ。
月も出てないのに口開けてらー』
屋根上で冬の夜空を見詰めている白猫を観て、自説を披露する宮森。
『真北を向いてるから、北極星を見てるのかな。
あっ、向きをちょっと変えた。
北斗七星の方を見てる……。
明日二郎、北極星を含むのが子熊座で、北斗七星を含むのが大熊座だぞ』
『ふーん、そうなの?
熊っていやーさー、お前さんの記憶で鴻神社の熊手も観たし、今日はホント熊づくしだな』
宮森は何か思い付いたのか、冬の星空を眺め明日二郎へと告げる。
『明日二郎、旅行先が決まったぞ。
『熊だけに熊埜。
安直さは否めんが……。
まあ、オイラは温泉に入れてウマイもん食えれば文句は無い。
いっちょ行きますか~』
◇
熊埜行きを決定した宮森が玄関をくぐると、
白猫は街へ入ると迷わず裏路地を進み、袋小路の暗がりへ辿り着く。
だが、その行き止まりが白猫に語り掛ける。
『よくやってくれた、私の可愛い【アイ】。
これでもっと面白くする事が出来るぞ。
クフッ、クフフフフフッ……』
行き止まりから伸びた〈影〉が笑うと、白猫は白猫でなくなった。
その毛並みは、辺りに沈殿している邪念を
真っ暗に、だ。
その真っ暗な猫の顔には、在る筈のモノが無い。
険しさと
その真っ暗な猫の顔に在ったモノ。
ソレは……
縦に大きく見開かれ、血を吸ったように赤く
◇
金華猫の誘い その四 了
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