第一節 金華猫の誘い
金華猫の誘い その一
一九一八年一二月
◇
今日、帝居地下で行われた
休暇の件を多野に申し出る宮森。
「……と云う訳でして教授、
「……良かろう。
確かに御子が御生まれになれば、教育係の君は御子から離れられん。
手配しよう。
又、八月の旧
宮森 君、君は我々にとって必要不可欠な人材。
帝都外に
それでも構わんか?」
「それは構いません。
では、詳しい予定を組み次第連絡致します。
警護の方の都合も有るでしょうから」
「うむ。
急な出立にならぬよう、
ではな……」
多野はそう言い残し、車を待機させている地上へと階段を昇って行く。
宮森も、下宿先である
下宿前まで来た宮森に、
ひと月ほど前に知り合い、
『なあミヤモリ、お前さんの部屋の屋根見てみろよ。
又あの猫が居るぜ。
それに、なんか空みてるぞ』
宮森が自室の屋根上に目を向けると、一匹の白猫が北東の方角を向いて座っていた。
『明日二郎、きっとあれは〖
『キンカビョウ?
ナンなのだソレ、食べられるのか?』
『ふふ。
三年飼った猫は、毎晩夜中になると屋根上に登って口を開け、月の
これを繰り返す事で、やがて妖怪の金華猫となり人を化かすんだと。
金華猫には白猫がなり
『おお、化け猫だな。
正確には、現在進行形で化け猫になろうと修業しておる所かの。
白猫君、頑張っての~』
白猫に向けて、
『ミヤモリよ、お前さんもあの白猫君を見習って修業に身を入れねばならんぞ』
『分かりましたよオシショー様。
う~寒い、もう中に入るぞ、いいな?』
宮森(と明日二郎)は、金華猫になるため修業中だろう白猫に手を振り、自分達ばかりが温もろうと玄関をくぐる。
彼らの一部始終を知ってか知らずか、屋根上の白猫は今まで月に向け開けていた口を閉じた。
マッサージを終えたらしい白猫は、屋根上から塀を伝って地面に降り立ち、さも面倒臭そうな足取りでどこかへと消えて行った――。
◇
一九一八年一二月 宮森の下宿先
◇
自室へと帰った宮森は、明日二郎に
『明日二郎、
これからの予定を話し合いたい』
『ほいきた。
ミヤモリもテレパシーには慣れたみたいだな。
じゃ、オニイチャンと接続~っと……ハイッ、お二人共どうぞー』
宮森と比星
『こんばんは宮森さん、明日二郎も。
今日は休暇の申請をしたんだよね。
で、どうなったの?』
『こんばんは今日一郎。
休暇についてだけど、多野 教授から一応の許可は貰った。
但し元旦から四月の始め迄は、宮中の行事が立て込んでいて帝都からは出られない。
帝都から出られるのは、早くとも四月上旬頃になるね。
そして八月上旬までには帝都に戻っていなければならないので、四月上旬から七月いっぱい迄が実質の休暇期間だ』
『となると四箇月弱……。
それくらい有れば
『いま考え中。
恐らく一箇所、行けても二箇所ぐらいだろうな。
明日二郎、何か希望は有るかい?』
『オイラは温泉に入れてウマイもんが食えりゃーそれでいい。
それに時間はタップリある。
よくよく
『まあ、どのみち警護の名を借りた監視も付けられるからな。
自分と君ら兄弟水入らず、って訳にもいかない。
なあに、温泉は逃げないからゆっくり考える。
ウマイもんは逃げるかも知れないがな』
『ノおおぉぉ、いかん、それはいかんぞミヤモリよ。
ウマイもんは逃がしてはならぬ~。
本気で心配している明日二郎を
『宮森さん、
『いや、まだだ。
近所の煙草屋にはなかったな。
明日から
大人顔負けの知力を持ち
『お出かけするのか?
ウマイもん食いに行こうぜ、オデカケオデカケ♪』
『昔の煙草を探すんだぞ。
ウマイもん食う為じゃないからな、明日二郎。
子供みたいに
『オイラ子供だも~ん』
『こんな時だけ都合よく子供ぶりやがって。
前に、「オイラはオ・ト・ナだからな」とか言ってたくせに』
『それはその……まーなんだ、言葉のアヤってやつよ。
それにオデカケは確定している。
昔の煙草探しとウマイもん食いに、レッツ&ゴー!』
宮森と明日二郎のくだらない掛け合いを眺めていると、今日一郎にも子供が本来持つだろう気持ちが湧き上がって来る。
しかし真面目で責任感が強い性格が災いしてか、いまいち
『宮森さん、
特訓は進んでいるかな?』
『ああ。
儀式の時に試しているんだが、確かに精神的苦痛は減ったと実感するよ。
後、九頭竜会の施設で拳銃射撃の訓練もやらされてるんだけど、その時も成績が格段に良くなるみたいだ。
自分は結構いい線いってるんじゃないかと思うんだけど……明日二郎どう?』
『確かにミヤモリの意気込みは感じる。
しかし、まだまだ気の練り方が甘い……
それと、あの拳銃の構え方は何だ?
なんか横に構えるヤツ、カッコ付けてんのか?』
宮森の射撃訓練映像を今日一郎に送信する明日二郎。
『宮森さん、なんだかんだ楽しんでるね。
それと、御霊分けの術法を習得して貰ったら別の術法も覚えて貰う』
『確かにそうだろうな。
御霊分けの術法だけでは、九頭竜会に対抗できない。
今日一郎、優先的に覚えなくてはならない術にはどう云うものが有るんだ?』
『そうだね、
となると……
『知らない単語が出て来たな。
今日一郎、説明を頼むよ』
魔術に関する話題となったが、場の雰囲気は
『うん。
念動術は字義の通りで、手を触れずに物を動かしたり破壊したり出来る念力の事。
英語では、サイコキネシスとかテレキネシスとか呼ぶね。
障壁術も、読んで字の如く霊的な障壁を作り出す術。
英語ではバリア、
念動術も障壁術も、習得には霊感による所が大部分を占める。
だから訓練せずとも使える人も居るね。
明日二郎に付いて練習すれば、宮森さんも
『分かった。
で、その断界術?
それは聞いた事が無い。
いったい何なんだ?』
ここで宮森に、今日一郎が不敵に
◇
金華猫の誘い その一 了
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