定着の儀式 その二
一九一八年一一月 帝居地下 神殿区画
◇
神官達は作業を二手に分ける。
一方は
娘へと向かった方は鋏や小刀で彼女の衣服を切り裂き、時間を掛け乍ら裸に
手足は拘束され目隠しと猿轡をされている娘。
彼女が
磔刑台下には切り裂かれた衣服が散乱し、より無残さを強調している。
やるせない感情をいだき、娘から目を逸らす宮森。
それに反し、周囲の会員達の大半は
宮森の視界に子供の神官が入り込む。
子供の神官は感情の籠らない冷ややかな眼で他の神官達が行なう作業を眺めていたが、作業が進展したのを見て取ると娘に
その仕草が、娘へと向けられた
彼はそれ以上娘の裸体を見続けられず、もう一方の神官達に視線を移した。
神官達は手の平
金属製の筒は片側を
娘の服を裂いていた神官達も合流し、総出で革布を外しに掛かる。
只、子供の神官だけは動かない。
革布が外された筒が、革製の敷物の上に並べられた。
筒自体が小型なので数えにくいが、五〇個ほどの数が在る。
今の所、並べ方に規則性は見受けられない。
筒を並べ終わった神官達が子供の神官に注目すると、子供の神官が無言で
他の神官達は両手に先程の筒を持ち、次々と生贄の娘へと向かって行った。
娘周囲の煙が晴れると、観察のため前に出る宮森。
神官達は娘の両手両脚と胴体に取り付き、
その度に娘は苦悶の声を上げ、筒を押し当てられた跡には血が滲む。
筒の片側が鋭い
気分を害し乍らも、その様子を検分する宮森。
⦅
恐らく、皮膚に紋様を刻み込む為の物。
紋様が刻まれる度に血が流れている為、紋様の正確な形状は判別できない。
神官達の顔布に描かれているナアカル語、旧カタカムナ文字なのかも知れないけど、いま詳しい観察は無理か……⦆
簡易的な考察の後、宮森は再び神官達の作業に集中する。
神官達は両手に持った押し型で娘に幾度かの刻印を施すと、別の押し型を取りに戻ってはまた娘へと向かう。
作業中、神官達は一切の言葉を発しない。
目配せすらも無い。
それなのに神官達の動作には
刻印が刻まれるごとに娘の肢体が朱く彩られて行き、彼女の
それと反比例するかのように、見物する会員達は興奮しきりだ。
他の会員達に反して、
だが彼は、娘の目隠しが濡れる度に諦観と罪悪感に
⦅何と云う事に加担してしまったのだ。
自分は……⦆
彼ひとりがどう思おうと儀式は進む。
いかに非人道的行為をなそうと、決して罰せられる事の無い者達が居る。
それこそが権力であり、その権力を
それが現実なのだ。
宮森が
娘の様子がおかしい。
小刻みに
猿轡を噛んでいる口の端から垂れて来るのは、泡立った
それだけではない。
涙や鼻水はおろか、娘の股間からも
娘の急変を
そんな宮森の気持ちなど知り得ないだろう多野 教授、草野 少佐、蔵主 社長、瑠璃家宮は余裕の表情である。
「来ましたな……」
「はは、もう直ぐ……」
「ドキドキぃ、ワクワクぅ」
「いよいよか」
期待を隠しもせず、互いに笑みを浮かべる悪魔達。
その間にも、娘の痙攣は明らかに大きくなって行った。
猿轡を噛み切らんとするばかりに全身が
娘は
子供の神官以外の八人が磔刑台前に一列で並ぶ。
準備が整った。
儀式の開始である――。
◇
定着の儀式 その二 了
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