帝居地下神殿 その二
一九一八年 一一月 帝居地下 神殿区画
◇
宮森の目に飛び込んで来た地下空間は、恐ろしく広大で非常識なものであった。
一定の間隔を置いて巨大な
昔、植物図鑑で見た事のあるバオバブの木を宮森は思い出していた。
余りに広過ぎるので、軍用の投光器が間隔を空けて設置され空間内を照らしている。
照らされている範囲だけでも一〇〇メートル四方は有りそうだ。
それでも尚、投光範囲外の暗闇の方が圧倒的に広大だと思わせられる。
初めは空間の広大さに驚嘆した宮森だったが、直ぐ
感覚の全てが釘付けになってしまう。
――神殿。
その様に形容する事しか出来ないモノであった。
神殿の
彼は背広の
研究者の
[註*オペラグラス=観劇用などに用いられる双眼鏡]
⦅意匠をざっと検分した限りでは、この国の国教である【
だが、この国を含めた東アジア諸国で広く信仰されている【
[註*
[註*
[註*
[註*アラム
不可思議さと底知れぬ
正体不明の威圧感とある種の誘惑をも
それらが宮森の感覚を何の遠慮もなく侵略した。
彼はこの地下空間の広大さとその異様さに圧倒され乍らも、他の参加者に
途中、二台の
その他にも大きめの紙袋が乗っていた。
案内係が会員達を認め一礼する。
彼らも同行する様だ。
地下空間の広大さと神殿の威容に気を取られていて気付かなかったが、ここは肌寒くも蒸し暑くもないと宮森は感じる。
これほど広大な空間の温度と湿度を一定に保つには、相当大掛かりな空調設備と莫大な電力が必要な筈で、宮森は改めて九頭竜会の持つ力の程を思い知らされた。
更に神殿へと近付くと、参加者の歩調が緩やかになり神殿の入口前で止まる。
そこには、門か
当然宮森は門を観察する。
⦅二本の門柱が
そして、もう一方の門柱へと滑らかな右回りの螺旋を描き乍ら水平に伸び、もう一方の門柱から伸びる螺旋と絡み合って、
しかし、
水平に湾曲した後、螺旋を描いて絡み合って行く。
これほど奇妙な様式はこれ迄に見た事がないな……。
それに、門柱自体が異常とも云える程の滑らかな質感を持っている。
特に螺旋状になっている部分はどうやって彫ったのか、自分には
門柱は円筒形の石造りで塗装はされていない様だな。
装飾の類も見当たらない。
多数の装飾が確認出来る建屋と比べると
自分は建築に関しては
建設されたのは極最近なのか?⦆
彼はさり
⦅石造りで間違いない。
だが、
とても、きもちがいい……⦆
宮森は何故か、この柱の感触をずっと味わっていたい誘惑に駆られていた――。
◇
門前の人の波が動く。
会員達が門の正面から離れ、門の正面を遠巻きにして並んだ。
すると門の正面左右にある投光器後方の暗がりから、異様な
左右の暗がりから門の正面に出て来た人数は八人程。
彼らは二人掛かりで何かを担いでいた。
ある組は担ぎ棒が通してある
もう一組は石柱。
別のもう一組は木製の板。
また別の一組は
担ぎ物が門柱前の床に降ろされる。
[註*
そして最後に、荷物を担いでいない者が一人出て来た。
その光景を見ていた宮森は急速に違和感を覚える。
荷物を担いでいない者の体格が異常に小さいのだ。
⦅まさか子供なのか⁉⦆
年の頃は五、六歳程に見える子供が一人。
他の者達を合わせると、暗がりから登場した集団は全部で九人。
宮森は一瞬戸惑ったが研究者としての習性が驚きよりも勝り、
⦅
この国の国教である真道の
なので神官ではあるのだろう。
ただ色が違う。
通常は白地に無紋の筈だが……。
彼らの纏っている服の色は朱色が二人。
藍色が二人。
子供の神官……は灰色か。
自然光の下で観察した訳ではないが、多分間違ってはいないだろう⦆
[註*
⦅次は、神官達の顔下半分を覆っている布だが……。
布は目から下の部分を覆う様に掛けられ、耳上を通す
布地の色は白色で、そこに黒字で何か描いてある。
伝承学の研究者である宮森は、それが何なのか理解するに至る。
研究者である彼でさえ文献に描かれたものを見た事が有るだけで、文献以外の品物に描かれたそれを目にしたのは初めての事であった。
布に描かれた文字は、太古に滅んだとされる【ムー・アトランティス文明時代】に使用されていた【ナアカル語】、【旧カタカムナ文字】などと呼ばれているものだったのである。
◇
帝居地下神殿 その二 了
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