第三節 突然の来訪者
突然の来訪者 その一
一九一八年 一一月 帝居地下 神殿区画 外郭部 観覧室
◇
排卵と受精の儀式は佳境に入った。
比星
〈
[註*
今日一郎から宮森への
『宮森さん、瑠璃家宮の精子の数が思ったよりも減っていない。
放精から日にちを開けたのに、Y精子がかなり生き残っている。
こちらに不備はなかった筈だが……』
『今日一郎、それは瑠璃家宮達が独自に何かやったのか?』
『その可能性は低い。
儀式の日取りや手順は絶対だ。
変更は有り得ない』
『拙いな……。
今日一郎、Y精子での受精を防ぎ切って予定通りX精子で受精させる事は可能か?』
『やるしかない。
ここで失敗すれば儀式はやり直しだ。
そうなれば、邪念を駆り集める為に多数の民間人が犠牲になる。
明日二郎もいいな?』
『オウよ! この程度のコトで動じるオイラ達じゃあねー。
比星ブラザーズの手並み、とくとご覧あれ~ってなもんよ。
よ~く観とけよ、ミヤモリ』
『頼もしいじゃないか、二人共頼むぞ』
今日一郎が〈
これは〈
〈
瞳が潤み
〈
⦅瑠璃家宮を見ているのか。
兄と呼んだ男を……⦆
鉦鼓の
篳篥の音色に合わせ卵管采が
楽琵琶の調べが〈
〈
弾ける。
〈
次々と排卵が起こる。
その数、六……。
――。
――⁉
〈
いや、最初からそこに存在していたかの様な不自然な自然さで
◇
『初めまして、比星 今日一郎君に明日二郎君。
そして宮森 遼一さん』
その何気ない一連の挨拶は、宮森と比星
突然の来訪者に彼らは
今日一郎が警戒の思念を
『明日二郎、通信が漏れている箇所を探知してくれ!』
『アイアイサー!
なんでだ? 通信の
どうなってやがる……ミヤモリはなんか感じるか?』
『駄目だ……。
自分も二人との連鎖しか確認出来ない!』
通常
宮森と比星
来訪者の
『何者だ貴様!
どうして僕達の通信網に入って来られる?』
対して、来訪者は
『質問は一つにして貰いたいな、比星 今日一郎君。
名前がないと呼びにくいだろうから一応名乗っておく。
私は【
以後、見知り置いて頂きたい。
初めに言っておく。
私の正体を探っても無駄だ。
特に明日二郎君。
この通信から逆探知を試みているね?』
『クソっ、バレたか……』
鳴戸寺と名乗る怪人に明日二郎の手口が早速
今度は鳴戸寺が今日一郎へと思念を向けた。
『君達が何をしようとしているのかは知っている。
君達の関係もだ。
そこで私から提案がある。
君達の関係と計画を口外しない代わりに、私がこれから言う事を実行して貰いたい。
どうかな? 比星 今日一郎君』
『テメー……オイラ達を脅す気か。
許さんぞ、ナルトデラとやら!』
明日二郎は気丈に吠えはしたが、鳴戸寺と名乗る怪人からの明白な脅迫に対しては無力極まりない。
このまま思案していても仕方がないと、今日一郎が交渉の場に就いた。
『鳴戸寺さん、と言ったね。
今は儀式中だ。
取り敢えず、対話の時間を稼ぐ為に思考と感覚の高速化を行いたい。
出来るか?』
『可能だ。
そちらに同期するからやってくれ』
話に付いていけない宮森が今日一郎に説明を
『思考と感覚の高速化?
自分にはまるで
それに……儀式の方はどうする?』
『大丈夫だよ宮森さん。
僕達と霊感共有で連鎖している今なら、特に練習せずとも思考と感覚の高速化を体験出来る。
但し、少し疲れるけどね。
物は試しだ。
明日二郎は宮森さんの支援を頼む。
では、思考と感覚の高速化を開始する』
各人思考と感覚の【
宮森は自身の肉体に閉じ込められた様な感覚を味わう。
⦅これが思考と感覚の高速化……。
まるで、周りの動きが止まったかの様に見える。
これで儀式中に会話を行うのか⦆
今日一郎が
『鳴戸寺さん、貴方の望みは何だ』
『では私の望みを言おう。
君達が用いる次元牢を使い、瑠璃家宮のY精子で授精させた授精卵を生成して貰いたい。
数は一つで構わないが、授精卵の生育までしっかりと行ってくれ
元々確実な妊娠の為に多排卵を促したのだろう、出来る筈だ』
『次元牢の存在まで知っているとは……。
だが、そのまま着床させたとしても瑠璃家宮達が望む女児は生まれて来ないぞ。
それとも、僕達が造ろうとしている授精卵を共に着床させ
だがそれは正規の予定ではない。
儀式は失敗と
『それは心配御無用。
瑠璃家宮のY精子で成育させた授精卵は、一週間後の儀式の際そのまま胎外へと流して貰えればいい』
『それは神殿に満ちている海水へ放出しろと云う事か?』
『それで良い。
後はこちらで処理する』
『瑠璃家宮の精子に何らかの処置を施したのも貴方か?』
『どうだろうね~? 御想像に御任せするよ。
瑠璃家宮の精子に施されたのは
『
貴方はその授精卵をどうする積もりだ。
どうせ良からぬ事に使うのだろう』
『フハハハハハハ……。
それも御想像に御任せするよ。
それと、こちらの要求を呑んでくれたら君達が成そうとしている帝都脱出を支援しても良い。
勿論君達の母上様共々……ね』
怪人の放言は宮森と比星
動揺を隠し切れない彼らの様子が怪人まで
明日二郎が怒声を発し食って掛かった。
『コノヤローッ! オカアチャンに何かあったらただじゃ置かんぞ‼』
『怖い怖い。
まるで咬みつかんばかりだねえ明日二郎君。
でも良いのかい? 精神感応の中継作業が疎かになってしまうよ?』
この一言にも宮森と比星
何故ならば、昨日の
今日一郎は肉体と脳内の
今日一郎の
『
盗み聞きにはもってこいだ。
僕達が気付かなかった事と良い、ここまでの
まあ、隠形法を使っている訳だから元から視えはしないが』
『今日一郎君は冗談を言える程に落ち着きを取り戻したみたいだね。
では、こちらの要求に対しての回答を御願いしたい』
『良いだろう。
そちらの要求を呑む……』
『オニイチャン!』
『今日一郎⁈』
『聞き分けが良くて大変助かる。
ありがとう、今日一郎君』
今日一郎の回答に対して明日二郎と宮森は懸念を示すが、今日一郎は
『但し、そちらが裏切らないと言う
『
では、君達にとある情景を送る。
先ずはその情景を観てくれたまえ』
鳴戸寺からの
宮森は注意深く
⦅
建造物などから見て日本だな。
入り江の中に……島?
その島に大勢の人々が視える。
どうやら作業員のようだ。
それに軍服姿……帝国海軍もいる。
帝国海軍の施設を建造しているのか?⦆
『ここはある目的の為に建造が始まった施設だ。
今月着工したばかりだよ。
四年後の大昇十一年、西暦では一九二二年に完成が予定されている』
考え
『ココが何だってんだよ?』
『この施設が完成し稼働を開始すれば、この国のみならず世界中が巨大な災禍に見舞われる』
『一体ココは何の為の施設なんだ?
答えろ!』
まるで自らが立てた手柄の如く、鳴戸寺は解説を始めた……。
◇
突然の来訪者 その一 了
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