突然の来訪者 その二
一九一八年 一一月 帝居地下 神殿区画 外郭部 観覧室
◇
突如として現れた怪人が得意満面な思念を振り撒き解説する。
『その施設だが、表向きは電波送信所として建設されている。
しかし実際は電磁波を発生させ照射する装置だ。
この電磁波と云うのは様々な分野に応用が可能でね。
小規模のものだと人間の脳や神経に作用し思考や行動を操れたり、出力次第では精神異常を引き起こしたりも出来る。
開発が進めば、生物の死体すら動かせる時が来るかも知れない。
他にも、照射した対象を一瞬で無害化したり焼殺する事さえ可能となるだろう。
小規模のものでこれなのだから、先程視せた大規模照射施設が完成した
今日一郎が気が気でない様子で尋ねる。
『大規模な施設だと何処までの事が出来る?』
今日一郎への返答の積もりなのであろうか。
鳴戸寺は不吉な
不祥な
――地震
――火事に津波に大変じゃ。
――
――
――
――
――海にはでっかい
――
――
――みんなで仲良く
――生きるも
――海の御殿に
――どうせ
――御先祖様に
――
――ホントの姿に
――御殿の
――出て来た
――
――
――現し世
――
――神も仏も残らず
――
――も
――この世を飲み込む海坊主。
――――。
『クフッ、クフフッ、クフフフハハハハッ!
……ふう、楽しみだ』
歌詞内容の余りに邪悪さに、宮森と比星
何とか冷静さを保っている宮森が会話を繋いだ。
『その装置は気象を操れると云う事ですね。
そして、全世界に天変地異を巻き起こし多くの人民を虐殺、邪神復活の為の贄とする積もりだ』
『その通り。
流石はあの瑠璃家宮が見込んだ男だ。
頭の方も切れるらしい。
将来が楽しみだね。
そしてその施設が完成し稼働を始めたら、ここ帝都も標的になる』
鳴戸寺のこの宣告には、宮森と比星
鳴戸寺が
『ケッ、
なあ、ナルトデラさんよ!』
『心配には及ばん。
私にも君達にも失業はない、その点は安心したまえ。
だが君達も知っての通り、魔術の効果が年々減衰しているだろう。
このままでは効率的に邪念を供給出来なくなるのでね。
そこで、瑠璃家宮が手を回して作らせているのがその施設だ。
ムー・アトランティス文明時代の科学力を復活させる為に苦心しているのだろう。
電磁波技術は様々な応用が可能だが……行き着く所は大量破壊兵器による人類の大量虐殺だ』
鳴戸寺が暴露した瑠璃家宮達の非道な
宮森が鳴戸寺に意見した。
『魔術から科学へ天秤が傾いていると?
しかも実行段階にまで来ている。
そして貴方は帝都の厄災を、阻止する気はない……』
『頭の切れる宮森さんらしい良い考察だ。
そこで私からの見返りについてだが、今建設されているその施設の情報と瑠璃家宮達が帝都で引き起こそうとしている大災害についての情報、その全てを渡す。
そして、もし君達が帝都から脱出する選択をした際には……その脱出にも力を貸そうじゃないか。
母上様と一緒では、目立ってしまい大層逃げ辛かろう?』
鳴戸寺は、比星
明日二郎が瞬間湯沸かし器さながらに
『コッチが下手に出てるのをいいコトに好き放題ぬかしやがって、もう我慢ならねえ!
オニイチャン、こんな奴の要求なんか絶対飲むな。
どうせ裏切るに決まってる。
オイラ達の計画はご破算になるが、今コイツを潰しとかなきゃ後々必ず後悔するぞ‼』
明日二郎の怒りは
『
お前が取り乱した所でどうにもならない。
この場で鳴戸寺の存在を瑠璃家宮達にバラそうと、鳴戸寺は痛くも
『くっ……オニイチャン、オイラこんなに悔しい思いしたのは初めてだぜ……。
でもオイラはプロフェッショナルだからな……。
こんな時こそ、クールに、だぜ……』
『おや済まなかった。
少し配慮を欠いた発言だったかな。
無礼を働いた詫びと云ってはなんだが、今日の儀式が終わった後で母上様との面会申請をしてみると良い。
直ぐに許可が降りる筈だ』
『そんな事まで出来るとはね。
九頭竜会に
では儀式後に面会を申請してみるとしよう。
それをもって鳴戸寺さん、貴方との
もし
感情の
『……宜しい、では取引成立だな。
この後の作業では、〈
これで私からの通信は以上だが、君達の行動は引き続き監視している。
一週間後の儀式迄には
では、混沌の這い寄るままに…………』
鳴戸寺の気配が消え、交渉は終わりを迎える。
鳴戸寺と交わした約定が
◇
宮森達が儀式へと戻る中、鳴戸寺は秘匿通信を使い何者かと連絡を取っている。
『聞こえているな※※※・※※※。
準備が出来た。
ほんの少しで良い、瑠璃家宮の精子の動きを鈍らせてくれ……』
『……分かりました。
ここ迄の段取り感謝します』
『私もこれで
では、混沌の這い寄るままに…………』
鳴戸寺の思念が消失した後、緑色の手袋を嵌めたその者は両手を奇妙な形に組み始めた……。
◇
今日一郎達は鳴戸寺との密約を結ばざるを得なかった。
宮森達が思考と感覚の
『うぅ……汽車に長時間乗った様な気分だ。
異界の臭いと同時はきつい……。
今日一郎、作業は上手くやれそうか?』
『問題ないよ。
Y精子の動きも鈍い、鳴戸寺が細工したようだ。
明日二郎の方はどうだ?』
『ノープロブレムだぜオニイチャン、後催眠暗示の方は任せてくれ。
ミヤモリはこの後大事なお勤めがある、少し休んでろ』
『あぁーそうだった~。
気乗りしないが仕方ない。
覚悟を決めとくよ……』
宮森と比星
今日一郎が受精作業に入ると、観覧席では瑠璃家宮、多野教授、草野少佐、蔵主社長共々、
瑠璃家宮達の興奮を煽るかの様に、明日二郎が演奏する楽筝は
〈
殆どの会員や施設職員達の眼に異形の明日二郎は映らない。
彼らには楽筝の音色そのものが、
異界の気配が広がると、会員や施設職員達の殆どが
遂に〈
瑠璃家宮の柔和な
鼉太鼓一対が一際強く鼓面を打つ。
精子が一斉に
〈
精子が卵子の一つに侵入を果たす。
卵子を包む透明帯と呼ばれる膜状組織が硬化、他の精子の侵入を防ぐ。
受精卵と成る――。
神官達は出来たばかりの受精卵を物的、霊的に保護する術式に取り掛かった。
その一方で今日一郎は、神官達が霊力を集中するのを見届ける。
そして細心の注意を払い、排卵された他の卵子と瑠璃家宮のY精子を胎外へと流す振りをして、不思議界の次元牢へと転送した。
これを以て、排卵と受精の儀式は終了となる――。
◇
突然の来訪者 その二 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます