最終話 ピザの日
~ 十一月二十日(水) ピザの日 ~
※
問題解決
俺たちの活動。
最初の一歩目。
いきなりぶち当たった問題は。
化学部の分裂騒ぎだった。
「いや、だから手品の魅力を伝えるための手段が化学なわけで……」
「そうじゃねえだろ。化学の楽しさを伝える手段が手品だろ」
「まだやってるんだ」
その問題は、ちゃんと解決できたのか。
納得してから二歩目を踏み出したいと秋乃が言うから。
今日は部活にお邪魔したつもりなんだが……。
ここ。
駅前のピザ屋じゃねえか。
「まだって言うか、いつもって言うか」
「この二人の会話は、基本口喧嘩」
「でも、だんだん活動が固まって来たよ」
「どんな感じに?」
「自分がやりたい事を各自が調べてプレゼンする日があって」
「それが今日か」
「やりたいものをいくつも掛け持ちでやるんだ」
「大概、全員参加なんだけどね」
なるほど。
それならこうなるのも頷ける。
「……なあ。先輩たち、ずっと言い争ってるけど」
「なんだよ」
「文句あるのか」
「いや、二人が言ってる大規模実験も二学期末のマジックショーも、お互いどっちも参加するんだろ?」
「だって面白そうだから」
「参加しねえわけねえだろ」
それなら口喧嘩なんてやめればいいのに。
ため息をついた俺の手元。
ウーロン茶のカップを差し出しながら、にっこり笑うのは。
「……これでいいのか?」
「すごくいいと思う……、よ?」
秋乃が納得したのなら。
俺も文句を言うまい。
それに、実際。
生徒一人一人が。
言いたいことを言って。
やりたい事を思いっきりやる。
本来あるべき部活の姿に。
即した形に収まったように見えるから。
ウーロン茶を飲んで。
そしてピザに手を伸ばす。
俺たちは、これでやっと。
一つの仕事を成し遂げたってことだろう。
さて、俺も食うか。
とろけるチーズに注意しながらピザを持って。
出迎えるために大口を開け……。
…………あ。
問題、もう一つあったっけ。
「そういや、お前の問題ってやつ、どうなったよ」
伸びて切れないチーズに悪戦苦闘していた秋乃は。
いつものように、口に手を当ててもぐもぐさせて。
ピザを飲み切ってから。
「か、解決した……」
「おお、おめでと。何部が抱えてた問題だ?」
「陶芸同好会……」
「そうか。陶芸…………、はあ!?」
おっさんとこの?
でも、あそこ部員いねえだろうよ。
「活動してねえのに問題発生するわけあるか!」
「夢野さん。入会してくれたの……」
「ええっ!? あの夢野さんが!?」
「うん。陶芸も面白いけど、それより先生の話が面白いからって」
…………まじか。
夢野さん。
世間知らずのお嬢様として。
その人気はクラス内外問わず非常に高いと聞いてる。
そんな子が、こんな時期に部活始めたりしたら。
「……あっという間に、部に昇格しそうだな」
「そうなの? なら、先生もきっと喜ぶ……、よね?」
「お前、まさか」
「猫の騒ぎの時、お世話になったから……、ね?」
まさか。
お前は先生のために部員探ししてたのか。
それがお前の言う。
部活探検同好会が解決すべき問題だったのか。
学生のための部活。
そんな方向からしか考えていなかった俺は。
改めて、心からの微笑を浮かべながらピザをかじる友達の横顔を見つめて。
大きな尊敬の念と。
そして小さな嫉妬の気持ちを。
同時に味わうことになった。
「…………先生、喜んでたか?」
当たり障りの無いように。
そして心境がばれないように。
つとめて平常心で問いかける俺の顔を見た秋乃が。
首を横に振る。
「なるようにしかならない、とか言ってた」
「あの人らしいリアクションだな」
俺が考えもしなかった言葉。
大人な物の考え方を教えてくれた。
そんな先生に負けず劣らず。
秋乃は。
俺が想像もしていなかった問題を一人で解決してしまったこいつは。
さらに上を行く予想外な言葉を吐いた。
「そんな子供みたいな夢ばっかり語る先生じゃ、いつまで経っても同好会復活しないと思って」
「子供扱い!? 深みのある言葉じゃねえの、なるようにしかならないって!」
「そんなの、努力しようとしない男子特有の言い訳……」
「一刀両断っ!?」
いや、分かるけども。
過程を理論的に進みたがって結論を求めないことが好きな男子と。
結果があれば途中はどうでもいい女子。
世の中から夫婦喧嘩が消滅しない、その原因を。
改めて思い知らされて。
俺は、頭を抱えることになった。
「……じゃあ、信頼できる先生の役に立ちたいってことじゃなく」
「ん? お世話になっただらしない先生のお助けを……、した?」
ってことか。
――こいつの発想には。
驚かされることが多々ある。
それが友達付き合いというものだとしたら。
俺は、どれだけ成長の機会を棒に振って来たんだろう。
でも。
これからは。
「……部活探検同好会。始めて良かったな」
「うん。これからも、楽しく続けられるといい……、ね?」
これからは。
いろんな人と知り合って。
お互いを良く知って。
高め合うことができるだろう。
……秋乃のいい所をもっと見つけよう。
そして、おこぼれを食らって成長しよう。
「って。そういう意味じゃねえ」
「だ、だって……。苦手……」
こいつ、ピザの具が乗ったとこだけ綺麗に食って。
耳を俺の皿に乗せて来た。
にらみつける俺をよそに。
秋乃は二枚目のピザを手にすると。
「舞浜ちゃん! やっぱ化学部入ってよ!」
「そうだ、いつも一人で実験してるみたいだしな!」
急に、皆さんから誘われて。
一瞬目を白黒させていたが。
「ううん? ……私は、化学好きだけど。一人でやるのが好きだから」
居並ぶ皆さんをがっかりさせると同時に。
俺を、嬉しい気持ちにさせやがった。
「……そうだな。俺も、一人でやるのが好きだ」
「何を?」
「マジックショー」
俺を楽しませる天才に。
たまには御礼してやらねえと。
ピザで油のついた手を良く拭いてから。
トランプを手にして秋乃にハートのエースを持たせる。
「……普通は、好きなカードを指定してくださいって言うところだけどな」
「これを……?」
そして、良くシャッフルした山のてっぺんを指差すと。
秋乃は素直に、その上に伏せた状態でカードを乗せる。
それと同時に右手で指パッチン。
一番上のカードをめくると……。
「あははははははは! す、すごい、どうやったの!?」
「ああっ! 失敗! 違うカードが出る予定だったんだけど!」
出てきたカードは。
『ハートのエース』ってペンで書いてあるジョーカー。
化学部の皆さんも。
俺の手際に拍手喝采。
まあ、実際には左手の小指で山を押さえ付けて。
二枚同時にめくっただけなんだけどね。
そんな二枚を元に戻して指パッチン。
もう一度、山の上を指差すと。
秋乃は素直にそれをめくって。
手にしたハートのエースを見て目を丸くさせた。
「鮮やかだな!」
「保坂君! これはもう運命だ!」
「是非化学部に入ってくれ!」
「さっき言ったじゃねえか。俺も、一人でやるのが好きなんだ」
「手品を!?」
「そう」
眉根を寄せる皆さんには分かるまい。
俺にとってのマジックって。
実際に見せた時は悲しい記憶しか無くて。
家で練習してた時の方が楽しかったんだ。
人前で見せるなんて御免被る。
だから、これは。
運命でもなんでもない。
――運命。
そんな言葉に。
抗ってみた一か月。
学んだことと言えば。
運命なんて、変えようと思えば簡単に変えることができて。
そして変えることができたところでそれが最良なんて保証はないってこと。
だから。
運命に逆らって。
自分の世界を。
より良くするよう動いて。
結果に一喜一憂するという生き方も正しいが。
与えられた環境に悲嘆せず。
なるがままに。
でも、一分一秒無駄にしないで。
みんなで心から笑うことも。
運命に逆らう生き方と言えるんじゃないだろうか。
……だったら最初っから。
運命なんてものはない。
どこでだって。
人は、楽しく過ごすことができるんだから。
そんな結論。
俺たちが、一生懸命思い悩んで出した答え。
改めて考えてみれば。
誰もが意識なんかしねえで。
自然とやってることな気がする。
「まあ、いいか。遠回りも楽しかったってことで」
「旅は、寄り道が一番の魅力……、ね?」
口に出してもいないのに。
俺が考えてることを全部理解してるこいつ。
秋乃との出会いだけは。
運命と。
呼んでもいいって思……。
「てめえぇぇぇぇぇ……」
「み、耳を……。食べてくれないと、私が置けないから……、ね?」
「気づけば俺の皿に山盛りじゃねえか!!!」
言えない何かを抱えつつ。
俺は、ピザの耳を口に押し込んで。
ウーロン茶で胃に流し込んだが。
そんな秋乃からのおこぼれは。
ちょっと焦げて、苦い味がした。
……これを運命とは。
絶対に思いたくねえ。
秋乃は立哉を笑わせたい 第7笑
=友達と、部活動をしよう!=
おしま
「俺! この店で一度もピザ食った事ねえんだぞ!」
「……それもまた、ピザ」
「こ・れ・の! どこがピザだって言うんだ!」
「ピザって、十回言ってみて?」
「そう言いながら膝指差してどうする! 指差すのは肘だ!」
「そうじゃなくて自己暗示……」
「かかるか! 耳じゃなくてチーズと具の乗っ
ああもう。
うるさいので強制的に。
おしまい♪
秋乃は立哉を笑わせたい 第7笑 如月 仁成 @hitomi_aki
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