【夢】  「人間五十年 化天(下天)のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり」 織田信長

夢 まどろみ

 ――――目が覚めた。


 酷く長い夢を見ていた気がする。

 暗闇の世界でただ1人、取り残されたような恐怖を感じた。

 室内を見回すと一面の白い壁に白い家具。 

 飾りっ気が無く女子力を感じない無機質な自室。

 壁は写真すらも飾られず一面真っ白で朝の光を増大させる。


 目覚めて間もないボケた頭のせいか、現実感が乏しく夢見心地だ。


 白昼夢にしろ夢想にしろ、夢から目を覚ますのに手っ取り早い方法がある。


 まず自分の頬をつねる。

 頬をから伝わる電気信号を脳が感知して覚醒させる成分を分泌する。


 痛ければ現実。

 すごくシンプルな手段だ。


 この世界に生きてることを実感する為にほっぺたをつねろうと手を顎まで寄せる。

 が、その手が顔の側まで来たところで止まる。


 自分でも解らないが頬に寄せた手が小刻みに震えていた。

 特に理由もないのに冷や汗で額がジワリと濡れていた。

 瞳の焦点が合わず白い空間が震えで歪んで見える。


 私は何に対して恐怖を感じているの?

 

 自然と湧いてくる涙が頬を伝い外気に触れて、急速に冷たくなった。

 自分でも何があったか解らないのに、気持ちだけが先行して悲しみが溢れ出る。


 今の私には痛みで現実を感じる自信はない。

 なのに、痛いほど寂しさを感じる。


§§§


《人が天から心を授かっているのは愛するためである》


 そう誰かが言った。

 愛はどの方向ベクトルへ進むか解らない。

 愛情を注げばその愛に答える者もいれば、過度な愛を受け止めきれず感情のダムが決壊し、反目する結果を示す者もいる。


 恋い焦がれる存在が自分ではなく別の誰かへ愛の矢を向ければ、それを憎らしいと感じ憎悪が生まれる。

 自分への無関心が許せなくなる。


 どんな薬剤よりも調合が難しい媒体だ。


 何故、形も神経もない心は愛によって痛みを感じるのだろう。


 天からの授かり物とは神が人に与えた贈り物。

 聖書では禁断の果実とも捉えることができる。

 神はその果実を手に取ってはならぬ、と言い聞かせる反面、最初の人類が天からの言いつけを守るか試した。


 人類が進化の岐路に立った際、いつも神の顔色をうかがって来たから、人は矛盾をはらんだ生き物に育ったのかもしれない。


 いつでもそうだった。

 神が人に与える物は常に人の考えに託されていた。


 何故、神は私達人間を試すのか。

 あくまでも推測の域をでないが、もしこの宇宙が神の見ている”夢”なら、目覚めた時、自身を愛してくれる存在がいないことを恐れ、人間に心を与え愛され方を知る為のテストをしている。


 心と愛は神が人間に与えたもうた思考実験なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢オチ 〜まどろみに沈む思考〜 にのい・しち @ninoi7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ