第2章 恋の最初のまなざし②

 まりあは制服を脱いでも美しかった。

 むしろ「脱いだ方が」と表現した方がより正確かもしれない。やはり、美しいまりあの身体にぼんやりとした色の制服は似合わない。

 椅子から立ち上がったまりあは、わたしが「手を上げて」「ここに脚を」と指示をすれば動いてくれたけれど、それ以外は一切自分で何かをしようとはしなかった。わたしが細かく震える手でスカーフを抜き取るときも、ジッパーを下すときも、プリーツスカートのホックを外すときも、凛とした姿のまま微動だにしない。その姿はまさしく自立する人形のようで、わたしは気分が高ぶるのを抑えることができなかった。


 ――どうか、まりあには伝わっていませんように。


 シンプルながら質が良さそうな上下の下着と透け感のあるスリップを身に着けたまりあの姿は、このままでガラスケースに飾っておきたくなるほど素敵で、くらくらした。絶妙なバランスと危うさで成り立っている、控えめな曲線を描く細い身体。もっと近くから眺めて、その肌に触れたい衝動に駆られたけれど、わたしはまりあに気づかれないように小さく頭を振ってその衝動をやり過ごした。

 わたしが密かに自分自身の衝動と戦っている間、まりあは凛と背筋を伸ばしたままどこか遠くの方を見ていた。その姿はとても堂々としていた。彼女は人形だから、下着姿をさらしたところで、恥ずかしがったりはしないのだろう。

 ワンピースを着せてヘッドドレスのリボンを顎の下で結ぶと、着せ替え終えた「わたしの人形」の姿がそこにあった。

 たっぷりのレースとフリルに彩られたまりあは、華やかな装飾に喰われてしまうことなく、やはり凛とした存在感を放っていた。わたしは隠すのも忘れて、感嘆のため息をつく。わたしの、人形。美しい、わたしだけの人形。

「まりあ」

 うわごとのように、わたしの口が自然に紡ぐ。

「ああ、まりあ。なんて、美しいの――」

 半分夢の中にいるような心地だった。熱に浮かされでもしたかのように、足元がふわふわする。不思議な浮遊感の中、目の前のわたしの人形に手を伸ばす。そっと頬をなでれば、さらりとした陶器のような質感と、かすかにひんやりした体温が伝わってくる。吸い込まれそうな瞳と、視線が交わる。視線にからめとられるみたいに、わたしの顔は段々とまりあの顔に近づいていって、そして。気づいたときには、わたしはまりあの頬に口づけを落としていた。

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二月の少女が咲くまでに 笹百合ねね @sasayulily

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