第2章 恋の最初のまなざし
第2章 恋の最初のまなざし①
その十二月の日曜日、わたしはまりあの寮の部屋にいた。学校が終わってすぐに訪れているので、ふたりとも曇天のような色の制服姿。学校指定のダッフルコートは、柊木まりあのものと一緒に、部屋に備え付けられているクローゼットにかけられた。クローゼットが開けられたときにちらりと見えたその中は、意外なほど服が少なかった。
わたしはいつものように椅子に腰かけたまりあの絹のような髪を丁寧に丁寧に梳いてから、少し前から考えていた提案を思い切って口にした。
「実は今日、持ってきているものがあるの」
「なにかしら」
椿油が染み込んで飴色に鈍く輝いているツゲの櫛をまりあの机に置いてから、わたしは部屋の隅に置いておいた通学鞄より大きな巾着袋を手に取る。ずっしりと重たいその巾着袋は、間違っても先生の目につかないように、地味な色を選んだ。体操服でも入っているのだと、思われるように。
「これなのだけれど……」
巾着袋から取り出したものを、まりあの目の前に掲げて見せる。それはレースとフ
リルが惜しみなく使用されたワンピースで、わたしの部屋にいるどの人形が身に着けている衣装よりも豪奢で凝ったデザインをしていた。控えめなフリルがあしわわれたスタンドカラーは上品で、ちいさなくるみボタンが並ぶヨーク部分にはタックとレースがたっぷりあしらわれていてとても華やか。ウエストはリボンで結ぶようになっていて、リボンの先端にも小さなレースの姿が見える。スカート部分は生地が贅沢に使われているためパニエを入れなくても自然にふんわり広がり、リボンとフリルとレースが整列するように規則正しく飾られている。数年前にお年玉で購入したもので、わたしは一度も袖を通していない。
「随分と少女趣味なのね」
「いけない?」
「いけなくはないわ」
「これをまりあさんに着せたいの」
声が震えていた。それは緊張からくるものと、そして別のものと。
「今日は着せ替え遊びをさせて」
少しの逡巡の後、「いいわ」とまりあは言った。
わたしはほっと安堵して、ワンピースと、それからお揃いのヘッドドレスをまりあに差し出した。
「じゃあ、わたしは背を向けているから……」
「何を言っているの?」
まりあは小さな力で、差し出されたワンピースをわたしの方へ押し返した。
「人形は自分で着替えたりしないわ」
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