第118話 最終話

 問題だらけの遊園地ではあったが、なんとか結衣は見つかったし和解をする事もできたので最終的には楽しめたのではないだろうか。


 ……いや、お世辞でも楽しかったとは言えないな。結衣を探してる時は生きた心地がしなかったし。


 そんな事を考えながら帰路についている俺たちは最初に水菜と別れ、俺と結衣の二人で帰宅している。


「今日は本当にごめんね。私の身勝手で迷惑かけちゃって」


「俺も水菜も迷惑だなんて思ってないよ。俺の方こそ結衣の気持ちに応えてあげられなくて申し訳なかったと思ってる」


 結衣からの告白を断った俺が申し訳ないと謝罪をするのは変な感じもするが、謝罪をする以外の言葉が思い浮かばなかった。


「史桜くんがそんな風に思う必要ないんだよ? 私は今日でスッキリしたし、また次に進んでいけそうな気がしてるから」


 確かにここ最近の結衣は暗い表情ばかりで、明るい表情を見たのはかなり久しぶりな気がする。

 結衣の明るい表情を見ていると、どこか吹っ切れた様な雰囲気が漂っている。


「結衣が次に進めるよう俺も応援してる」


「ありがとね。でももうこれで本当に終わったんだなと思うとなんだか少し寂しいなぁ」


 先程は明るい表情を見せていた結衣だが、結衣の表情はどこか寂しげな様にも見えた。というか、寂しげな表情に変化してきた様な気がする。

 そんな結衣を慰める言葉をかけてやりたいが、結衣の事を振った俺が結衣にどう言葉をかけるのが正解なのかが分からずにいた。


「……終わったって思うんじゃなくて始まりだって思えばいいんじゃないか?」


「……確かに、それは元気出そう」


 言葉ではそう言っている結衣だが、やはり結衣の表情からは寂しげな様子が見て取れる。


「今度こそ本当に終わったって思ってたのに、やっぱそう簡単には終われないんだなぁ」


「え、なんだって?」


「あ、史桜くん‼︎ あれ見て‼︎」


「え? なに?」


 寂しげな表情を見せていた結衣が急に指を刺したので俺はそちらの方を振り向くが、結衣の指さす方向には何も見当たらない。そんな訳はないとしばらく結衣が指さした方を探してみるが、特別変わったものは見当たらなかった。


「なんにもねぇじゃねぇか……っ」


 俺が何もないと結衣の方を向き直すと、結衣の顔が俺の目の前にあり、そのまま結衣の顔が俺に近いづいてきて俺の唇と結衣の唇が触れた。


「--っ⁉︎」


「--っぷはぁ」


「な、何してんだよ⁉︎」


「ふふっ。これで最後。これが本当に……本当に最後だから」


「さ、最後? いや最後にこんなことする意味が分かんないんだけど……」


「本当にありがと。私、史桜くんが後悔するくらいいい女になるんだから‼︎」


「急に何されたのか理解が追いつかないんだが……。まぁ結衣はもう十分いい女だから安心してくれ」


 結衣の突然の行動に動揺しながらも俺たちが別れる場所まで到着し、俺たちは手を振って帰宅した。




 ◇◆




 水菜と結衣と3人で遊園地に行った休日を終えた俺は登校してきて学校の正門の前までやってきていた。

 俺が登校してきたタイミングで水菜も登校してきて、俺たちは学校の前で落ち合う事になった。


「おはようございますっ‼︎」


 朝から元気に挨拶をしてくる水菜の元気に釣られて俺も元気が出る。


「おはよ。朝から元気だな」


「そりゃもう‼︎ 史桜が私を選んでくれた事が嬉しくて」


 ニコッと笑う水菜の笑顔を見ていると、水菜の事を選んで本当に良かったと思える。


 俺がそんな事を考えていると、俺たちの後ろから結衣がやってきた。


「お二人さんっ。朝からアツアツだねぇ」


「どうですか‼︎ 熱すぎて沸騰してますよ‼︎」


「それは良かった。まぁ私も昨日の史桜くんとのキスは熱かったなぁ」


「……え? キス?」


「っちょ、結衣⁉︎」


 結衣がしてきたキスは俺はの気持ちを整理するためのキスではなかったのか⁉︎


 それにその言い方だとどっちからキスをしたのか分からなくて水菜が勘違いするじゃねぇか。


「どういうことですか? ちょっと話があるので中庭まで……」


「授業に遅れるからもう行くわぁ‼︎」


「あ、逃しませんよ‼︎ 結衣先輩にも後で事情を聞きますからねぇ‼︎」


 そして俺は水菜に追いかけられながら教室へと向かった。


 今こうしてみんなで笑っていられるのだから、俺の選択は間違いではなかったのだろう。

 とはいえ、俺の選択が今回の選択と違ったとしてもきっとこうして笑っていられたのではないだろうか。


 どこかで一歩でも間違えていたとしたら、俺は後悔の念に苛まれいつまでもその気持ちを引きずっていたかもしれない。


 この状況にたどり着つ事が自分に成長を感じながら、俺は教室まで全力で、気持ちの良い汗を流しながら逃げていくのだった。

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好きな人ができたと俺に別れを告げた元カノの想い人は俺じゃないけど俺だった 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

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