第117話 揃った3人
勢いで結衣の乗っていた観覧車に乗り込んだはいいが、結衣と何を話すのかを全く考えていなかった俺たちは会話の内容に困っていた。こんな状況で何を話せば良いのだろうか。
「結衣先輩、ずっと観覧車に乗ってたんですか?」
俺が会話の内容に悩んでいると水菜が結衣に質問をした。
「……まぁそうだね。途中お手洗いに行きたくなって1回だけ降りたけど、そこからはまたずっと観覧車に乗ってたかな」
やはり結衣は姿を消してからずっと観覧車に乗っていたようだ。そりゃ遊園地の中をどれだけ探し回っても見つからない訳だよ……。
「……ごめんね。ずっと2人に探させちゃって。ってこんな事言うなら最初からいなくなるなよって話だよね」
結衣は申し訳なさそうに俺たちに謝罪をしてくるが、結衣が逃げ出したくなる気持ちは分かる。
俺と水菜のカップルにつきそうなような形で今日の遊びに参加した結衣は今日俺に告白をしてきた。
その告白を断られたとなれば俺たちカップルと一緒になんて居づらいだろう。まぁ仮に俺が結衣の告白を了承していてもそれはそれでこの場にいづらいだろうけどな。
まぁとにかく、結衣の気持ちを考えると俺は結衣を責める気にはなれなかった。
「本当ですよ‼︎ なんで急にいなくなったりしたんですか‼︎」
……え、水菜?
意外にも水菜は結衣に対して怒っているようで、結衣が俺たちの前からいなくなった理由について訊き始めた。
「最初から決めてたんだ。今日史桜くんに告白して、私の恋愛が終わったら2人を残して先に帰るって……。でも私、やっぱり弱虫だったみたいでね。どうしても遊園地を出ることができなかったの」
結衣は最初から俺に振られるつもりで俺に告白をしてきたらしい。やたらと振られた時の反応が薄かったのはそのせいだろう。
「結衣……」
「結衣先輩。それは弱虫なんかじゃありません」
「……え?」
「好きな人に彼女ができたからって、好きな人から一度フラれたって、好きな気持ちを消し去るのは難しい事です。でも結衣先輩は今日、勇気を出してもう一度告白したんじゃないですか。なので弱虫なんていいません。結衣先輩は強いです」
「うぅ……。水菜ぢゃあ〜ん」
結衣は水菜からの言葉に心を打たれたようで、今まで堪えていたものを全て吐き出すかのごとく大量の涙を流しながら水菜に抱きついた。
「よく頑張りましたね。えらいえらい」
2人の感動的なシーンにも思えるが、先輩が後輩に抱きつき、さらには後輩が先輩の頭を撫でているこの光景には違和感しかない。
「ほら、史桜も結衣先輩の頭を撫でてください」
「……は⁉︎ 俺も⁉︎」
「そうですよ。ほら早く」
何言ってんだこいつは。俺は結衣を振ったんだぞ? そんな俺が何様のつもりで結衣の頭を撫でればいいのだろうか。
流石にそれはできないと躊躇っていると、結衣は潤ませた目をこちらに向けてきた。
「あーもう撫でればいいんだろ‼︎」
こうして俺たちは観覧車の中でみんなで抱き合い、蟠りを解いたのだった。
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