第116話 突撃

 俺は俺たちの後ろに乗っていた結衣と目が合ってしまい思わずその場で固まってしまった。


 なんで結衣が観覧車に? 俺たちに見つからないよう観覧車で隠れてたって事か? て事は結衣は俺たちの前からいなくなってからずっと観覧車に乗ってたって事なのか?


 だとしたらしっかり結衣の思惑にハマってるじゃねぇかよ……。


「どうしました? 急に固まっちゃって」


 結衣を見て固まる俺に水菜が理由を訊いてきた。どうしたと聞かれてもこの状況をどう説明するべきなのか俺には分からない。


「いや、今俺の目に写っている光景が現実なのが幻覚なのかがいまいち分からなくて……」


「何言ってるんですか。史桜の目に写ってるのって私ですよね? 私幻でも何でもないんですけど」


 水菜は俺の目に写っている結衣の存在を知らないから俺が何を言っているのか訳が分からないだろうが、後ろの観覧車に結衣が乗ってるなんて言ったら嘘だと笑われてしまう。


 とはいえ、俺の目に何が写っているのかいるのか理解してもらわなければ話は進まないし、そのためにはとりあえず水菜にも後ろを振り向いてもらうしかない。


「水菜、とりあえず後ろ向いてくれないか?」


「え、なんかそんな微妙な表情で言われたら振り向きたくないんですけど」


「頼む、早く振り向かないと見えなくなるから」


 このまま水菜が後ろを振り向かずに観覧車が進んで行ってしまったら結衣の姿が見えない位置に移動してしまう。その前に水菜には後ろを振り向いてもらう必要があった。


「だって急にそんなこと言われたらなんか怖いじゃないですか。後ろにこの世のものじゃない何かとか写ってたりしません?」


「いや、それはない」


「じゃあ何があるんですか!!」


「ああもうじれったい!!」


「え、ちょっと史桜!? こんなところで何を……」


 水菜が自分で後ろを振り向くまで待ちきれなかった俺は水菜の肩を持ち、水菜を無理やり後ろに振り向かせた。


「……え?」


「俺の目が正しいのか俺の頭がおかしいのか、教えてもらいたいんだが。水菜の目には何が写ってる?」


「……結衣先輩ですね」


「ってことは」


「幻覚でもなんでもなく、あれは本物の結衣先輩です」


 水菜が結衣の姿を確認して呆然としている間に観覧車は移動して結衣は俺たちの視界から消えた。


「そういうことになるよな……」


「まさかいなくなってからずっと……?」


「まさかそんな訳はないと思いたいところだが、俺たちがどれだけ探しても見つからなかったことを考えるとそういう事になるんだろうな」


「マジですか……」


 ずっと結衣を探していたはずなのに、俺たちは結衣を見つけた喜びよりも結衣がずっと観覧車に乗っていたという事に驚きを隠せず思わず言葉を失ってしまう。


 そのまま俺たちは膝に肘を付き俯いたまま観覧車は進んで行き、降車場へと戻ってきた俺たちは観覧車を降りた。


 俺たちが観覧車を降りると結衣が降車場までやってきて俺たちと目が合う。


 結衣は気まずそうに俺たちから目をそらし、スタッフに向けて指を一本立てた。


「「いやもう一回じゃねぇよ!!」」


 俺と水菜はそう言いながら結衣が乗る観覧車へと乗り込んだ。

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