第115話 盲点

 俺と水菜はあれからまた結衣の捜索をしばらく続けたが、結局2時間程度捜索を続けても唯の姿を見つける事はできなかった。


 流石の俺も結衣はもう園内にはいないだろうとあきらめかけていたのだが、そんな弱気になっている俺の横で水菜が提案してきた。


「これだけ探して見つからないって事は園内にいない可能性が高いと思います。なので、最後に観覧車乗りませんか?」


 何を言い出すかと思えば予想外に能天気な提案に気が抜けそうになってしまう。


 しかし、最後に観覧車に乗って園内を見渡したら意外と一瞬で結衣が見つかるなんて事もあるかもしれない。わずかな可能性ではあるが、どれだけわずかでも可能性があるのであればやらない訳にはいかない。


「そうだな。意外と観覧車から外を見渡したらすぐに結衣が見つかるかもしれないし乗ってみるか」


 そして俺たちは観覧車へと向かい、再び観覧車に乗り込んだ。


「まさかまた観覧車に乗る事になるとは……」


「私は楽しいから寧ろもう一回史桜と観覧車に乗れて嬉しいですけどね。って結衣先輩が見つからないこの状況でこんな事言うのも不謹慎かもしれませんが」


 不謹慎ではあるのかもしれないが、水菜の不謹慎さで俺の疲弊していた心は救われた。お昼過ぎからこうしてずっと結衣を探しているので俺の疲労はピークに到達している。それは俺だけでなく水菜も同じ事だろう。


「不謹慎じゃねえよ。別にいなくなって死んでる訳でもあるまいし。それにしてもほんとに見つからないよな」


 俺たちは会話をしながら窓の外を見て結衣が園内にいないかどうかを確認するが、やはりどこを見渡しても結衣の姿はない。


「結衣先輩がこうして逃げ出すなんて意外です」


「それだけ俺が負担かけちまってたんだよ。今更後悔しても遅いけどな」


「史桜が自分で選んだ事なんですから。後悔する必要はないですよ」


「そうかなあ……」


 水菜は俺の事を慰めてくれているが状況が状況なだけにそうだよなと開き直ることもできなかった。


「まあとりあえず観覧車から降りたら遊園地を出て結衣先輩の家に向かいましょう。流石に家には帰っているでしょうし」


「そうだな。家にいてくれてる事を願うよ」


 結衣の家に行って結衣がいなかったとしたらそれはもはや事件である。


 しかし、マイナス思考になってしまっている俺の頭には最悪の結果ばかりが浮かんでいた。


「もしかしたら結衣先輩も観覧車に乗ってたりして」


「そんな訳ないだろ。一人で観覧車なんて……」


 水菜のありえない発言を馬鹿らしいと否定しようとしたその時、俺は思わず言葉を発せなくなってしまった。


 俺たちの後ろの観覧車に乗っている結衣と目が合ったのだ。

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