ほらそこにわたしがいる

小欅 サムエ

わたしがいる

 友人の顔を剥いでみたら、それは私の顔でした、っていう夢を見たことは無いですか?


 ないですか。まあ、そうでしょうね。


 友人は友人だし、私は私。顔を剥いだって、そこにあるのは顔面の筋肉や神経だけですから。


 そこにあるのは、『友人』という個であることに、まったく異論はないのです。


 でも、私はときどき、そういう夢を見るのですよ。友人の皮を被った人間が、実は私だった、という夢をね。


 別に、人間不信な訳ではありませんよ。友人を痛めつけて、私に変えたい、とかいう潜在意欲ではありません。友人の発する言葉に対して、一喜一憂するほど私はヒマじゃありませんから。


 他人の評価する『私』とは、その人にとっての『私』なのですから、それは別に良いんです。


 ただ、私がいるんです。友人の顔の下に、私が。


 そうなんですよ。私が私を見つめているんです。そして、評価してくれるのはいつも私なんです。


 おかしいでしょう? だって、私は私一人しかいないはずなんですもん。友人の顔を一人ひとり剥いでいって、全員が私だったら、本当に怖いことなんです。


 でも、そういう夢をよく見るのです。私は私で、あなたも私。そして、彼らも私。見渡す限り、私だけが立ち並んでいるのです。


 ああ、怖い、と思って目を覚ますと、大抵の場合はすっかり忘れてしまっているのですけれどね。


 でも、友人が私で、私も私なのだとしたら、私は一体どこにいるのでしょうね。たくさんの私が、私を褒め称え、責め立てる。それは一体、誰に対する評価なんでしょうね。


 そうそう、試しに一人、今友人の一人の顔を剥いでみたんですよ。すごい叫ばれたので、とても耳が痛くなりましたけれど……そうしたら、見えたんですよね。


 私の顔が。真っ赤な顔をした、私が。


 ああ、やっぱり私がそこにいたんだな、と思って、ちょっと笑っちゃいましたよ。


 結局、私は私に殺される運命だったんでしょうね。

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ほらそこにわたしがいる 小欅 サムエ @kokeyaki-samue

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